吸血鬼って何? 恩田陸の答え 新著「愚かな薔薇」

2022年1月24日 07時18分
 直木賞作家・恩田陸さん(57)=写真=が、新著『愚かな薔薇(ばら)』(徳間書店、2200円)を出した。14年にわたる雑誌連載をまとめた本作は、山間のまちを舞台に、他人の血を飲むことで宇宙へ旅立つことのできる体に変質する、という設定のSF小説。恩田さんは「吸血鬼って何なのか、私なりの回答を書けたという満足感がすごくありますね」と手応えを語る。 (北爪三記)
 物語の主人公は、十四歳の少女・奈智(なち)。「虚(うつ)ろ舟」(宇宙船)に乗り込む「虚ろ舟乗り」を育てるキャンプに参加するため、磐座(いわくら)にやって来た。虚ろ舟乗りになるには、吐血を繰り返し、年を取らない体に変質しなければならない。その過程で、他人の血を飲む「血切り」が必要だが、奈智は「そんな化け物じみたことは嫌だ」と葛藤する−。
 小説や映画、漫画などさまざまな作品の題材になってきた吸血鬼。恩田さんにとっても書きたいテーマの一つだったという。「子どもの頃から、何なんだろうと。人類の進化の記憶みたいなものが含まれているのではないか、と思っていたんです」
 物語の中で、奈智の「変質」は体だけにとどまらない。伯父夫婦に育てられ、家でも学校でも、疎外感が消えることのなかった少女は、キャンプで直面した葛藤を乗り越えることで、意識も変わっていく。
 「疎外感とか、『自分だけ違う』みたいな感覚って誰でもあって、大人になってもなくならないものだと思うんです。主人公が自分と世界を受け入れる、その過程を書きたかった、ということがあります」

期間限定カバーは、恩田さんが愛読し「大きな影響を受けている」という漫画家萩尾望都さんの描き下ろし

 タイトルが暗示するのは、枯れない花、つまり不老不死だ。作中には、虚ろ舟乗りが<永遠というのは、一瞬と同じなのだ。いつまでも生きられるということは、ほんの一瞬ですべてが終わることと同じだ>と言う場面もある。「不老不死になったら幸せなんだろうか」という作者の問いかけが浮かぶ。
 磐座では、キャンプの期間が、観光客が訪れる祭りと重なっている。この舞台のモデルは、郡上おどりで知られる岐阜県の郡上八幡(郡上市八幡町)。恩田さんは、かつて訪れた際、山間の集落で空を見上げてふと「ここに空飛ぶ円盤が飛んできたらすごく絵になるな」と思ったことが、強く印象に残っていたという。
 SFやミステリー、ファンタジー、青春もの、音楽や演劇を扱う作品など、多彩なジャンルを手掛けてきた恩田さんは今年、デビュー三十年を迎える。
 「毎回必死だったので『もう三十年なのか』とびっくりしますよね。よく生き残ってきたものだ、という感慨はあります。でも、いっぱい書けば、執筆の黄金のセオリーのようなものが見つかって、それにのっとって書けるようになるって昔は信じてたんですけど、そんなものがないということがよく分かりました」と笑う。
 「縮小再生産にならないように、なるべくいろんなものを書こうと意識してやってきた部分もある」という恩田さん。意欲はますます旺盛だ。「まだまだやってないジャンルがあるので、この先も開拓しようと思います」。その一つとして、百年、百五十年にわたるロングスパンの作品を準備中という。
 恩田さんは子どもの頃、多くの週刊、月刊漫画誌を読んでいた経験から、書き手としても「次回はどうなるんだろう」と読者を引きつけようとすることが、「体に刷り込まれている」と話す。そうした連載を経て紡がれた五百八十ページ超の本書。「この世界に浸っていただいて、一気読みしてもらいたいです」
<おんだ・りく> 1964年生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞を受賞。06年『ユージニア』で日本推理作家協会賞、07年『中庭の出来事』で山本周五郎賞、17年『蜜蜂と遠雷』で直木賞と2度目の本屋大賞を受賞。著書多数。

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