<サブカルWorld>(13)リアルタイムバトル将棋 プロのe棋士がスピード勝負

2022年1月25日 08時14分
 昨秋、全国初となる「プロe棋士」が誕生した。耳慣れない言葉に、将棋取材を担当している記者の1人が首をかしげる。「一体何者?」。調べると、コンピューターゲームの技量を競う「eスポーツ」の一つで、対戦型ゲーム「リアルタイムバトル将棋」のプロプレーヤーを指すという。将棋とは、どう違うのか。コンピューターゲームと無縁の記者が、岐阜県在住の2人を訪ねた。 (世古紘子)

れお選手とやましゅ選手による第1回「電棋戦」の一戦

 一月半ば、「リアル−」を開発・販売するゲームソフト会社「シルバースタージャパン」(岐阜市)。同社に所属するプロe棋士の「れお選手」と「やましゅ選手」が、テレビ画面に映し出された盤を緊張の面持ちで見つめていた。
 「対局開始」「GO!」の表示が画面に浮かぶと同時、指がコントローラー上を激しく行き交った。バシュッ−。駒が進むたび、効果音と彗星(すいせい)のような軌跡が現れる。互いの「歩」が一斉に前に出て、大駒の「角」を交換。れお選手が「と金」をつくって相手玉を捕まえ、わずか六十秒で終局。正直、何が起きたか分からなかった。撮影した動画を見直して、辛うじて状況をつかめた。この日は二局対戦し、二局目はやましゅ選手が雪辱した。

対戦するやましゅさん(左)とれおさん=いずれも岐阜市で

 「リアル−」は二〇一九年、囲碁将棋のソフト開発を得意とする同社が家庭用ゲーム機向けに販売、現在はオンライン版も利用できる。「将棋は面白いが(決着までに)時間がかかる。スピード感などゲームの要素を取り入れ、ありそうでなかったものを創った」と営業広報部主任の岩田大樹さん(43)は語る。
 駒の動きは将棋と同じだが、いくつかの点で異なる。まず手番がない。将棋は先後を決め、対局者が順番に一手ずつ指す。「リアル−」は好きな時に好きな数だけ動かせるのだ。ただ、駒ごとに「クールタイム」が設けられているのが、ポイント。歩と王は三秒、桂と香は四秒、飛車と角、金、銀は六秒待たないと続けて動かせない。そして一刻も早く王将を取った方が勝ちとなる。制限時間(公式戦は二百四十秒)内に捕まえられない場合、持ち駒の点数で勝敗が決まる。
 記者も取材前、ソフトを買ってコンピューターと指してみた。手番なしはすぐに慣れるが、クールタイムがくせもの。大駒を進めたくなるが、動かせるまで数秒を待っていると効率が悪い。飛車の前に歩を打たれ、時間差で取られてしまうことも起きた。将棋とは別の、新たな思考回路と戦略が必要なようだ。
 プロe棋士のアドバイスとは? 「クールタイムの管理が大事。時間が長い駒を先に指して、その間にいろんな駒を動かすと良い」とは、れお選手こと、同県神戸(ごうど)町立神戸中一年の篠田怜桜(れお)さん(13)。やましゅ選手を名乗る岐阜市立島中二年の山口修生(しゅな)さん(14)も「将棋の駒組みをすると攻められやすかったりする。(設けられた秒数の違いで)駒の価値が将棋とは異なる」と教えてくれた。

勝負を終えた2人。2局目はやましゅ選手が勝利した。

 そもそも二人が先に出合ったのは将棋の方。篠田さんは小学四年のときに学童保育で始め、山口さんは年長で祖父から手ほどきを受けてプロ養成機関「奨励会」を受験したほど。だが二、三年前、岐阜や愛知のイベントで「リアル−」と出合い「指していて楽しい」「スピード感と早い者勝ちなのが良い」とのめり込んだ。
 昨年十月、プロになった四人による初のタイトル戦「電棋戦」が名古屋市で行われた。篠田さんが初代に輝き、山口さんは三位と涙をのんだ。二月下旬には二つ目のタイトル戦「銀星戦」が予定されている。「大きな大会こそ勝ちたい」と二冠を狙う篠田さんに、山口さんも「絶対優勝する」と火花を散らす。
 岩田さんは「国内外でプレーヤーは増えつつある。eスポーツの海外大会で『リアル−』が採用され、より広がれば」と期待する。

◆高い集中力、瞬発力必要 星野良生五段

 シルバースタージャパン社員で、将棋棋士の星野良生(よしたか)五段(33)=大阪市=もプロe棋士の一人。将棋と「リアル−」の違いなどを聞いた。
 −将棋の知識は「リアル−」でも役立つ?
 戦法がそのまま生きることはないが、どちらも良いとされる形はある。棋力は1、2級くらいあると上達は早そうだが、操作性などゲームの技量も必要。両者の割合がプレーヤーの個性にもつながる。
 −岐阜のプロe棋士はどちらも中学生。三十代として意識していることは。
 パターン認識ですかね。こういう場面では何を目指すかを、たくさん自分の中に持っておく。あとは目薬も大事(笑)。「リアル−」の対局は二百メートル短距離走のようで、高い集中力が求められます。一瞬の勝負なので、対局に臨む時は瞬発力を意識して気持ちを高めます。
 −「リアル−」のオススメポイントは。
 将棋は、勝負がつくまで長い対局も多いが、スピーディーなゲームなので何局も観戦できる楽しみがあります。また、何度もプレーすることで駒の動きを反復練習でき、こちらから将棋に入ってもらっても良いかもしれません。
<プロe棋士> シルバースタージャパンによると「リアルタイムバトル将棋」の販売実績は3万本。昨年3月、「日本eスポーツ連合」のライセンス認定タイトルとなり、プロライセンス発行が可能になった。10月にあったプロ選抜大会で8人中4位までに入った、れお、飛車ちゅう(神奈川)、やましゅ、星野良生各選手がプロe棋士に。プロは優勝賞金がかかるタイトル戦に出場でき、各種大会で得られるポイントの累計やタイトル獲得期で段位が変わる。
*「サブカル」とは、漫画、アニメ、ゲームに代表される「サブカルチャー」の略語。この欄は、沼のように奥深いサブカルの魅力をお届けします。毎月第4火曜日掲載。

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