飲む妊娠中絶薬、承認申請 女性の体負担軽減に期待

2022年1月25日 10時49分
 人工的に妊娠中絶ができる経口薬。昨年十二月、英国の製薬会社ラインファーマが、厚生労働省に製造販売の承認を申請した。世界保健機関(WHO)はガイドラインで、飲み薬を「安全で効果的な中絶法」としているが、日本では今も手術しか選択肢がないのが現状だ。承認されれば国内初の飲む中絶薬となり、女性の体にかかる負担の軽減が期待される。 (小林由比)

◆80カ国以上で使用

 申請された薬は、妊娠の維持に必要なホルモンの働きを抑えるミフェプリストンと、子宮の収縮を促すミソプロストール。二種類を組み合わせて使うことで、子宮の内容物を排出する。対象は妊娠九週まで。
 国内の治験には十八〜四十五歳の百二十人が参加した。ミフェプリストン一錠を飲み、三十六〜四十八時間後にミソプロストール四錠を服用。その結果、93・3%で、二十四時間以内に胎盤など子宮内容物が外に出て中絶が終わった。下腹部痛や嘔吐(おうと)などの症状が出た人も59・2%いたが、ほとんどが軽度か中等度。早ければ一年以内に承認される見通しだ。
 「中絶薬の安全性や有効性は科学的に確認されている。速やかに承認してほしい」。昨年末、都内であった薬の導入を求める集会で、中絶問題を研究する塚原久美さんは訴えた。塚原さんによると、飲む中絶薬は一九八八年にフランスと中国で承認された。現在は八十カ国以上で使われ、WHOの必須医薬品リストにも入っている。しかし、日本で認められている手段は、都道府県医師会が指定した医師による手術だけだ。
 妊娠初期(十二週未満)の中絶手術には、子宮の内容物を吸い出す「吸引法」と、金属製の器具でかき出す「掻爬(そうは)法」の二種類がある。掻爬法は子宮内膜を傷つけたり、子宮の壁に穴を開けたりするリスクがあるため、WHOは吸引法を推奨。掻爬法を「時代遅れ」と指摘している。どちらも公的医療保険が適用されないため、十万円ほどの費用は全額自己負担となる。

◆流産処置望む声も

 経口薬を使っての中絶費用について、日本産婦人科医会の石谷健幹事長は「前後の診察や検査、追加処置が必要な症例への対応も含め、手術と大差ないか、または若干安くなることが予想される」と説明する。これに対し、塚原さんは「必要な人に確実に届けられる価格設定が必要」と強調。WHOによると、海外での中絶薬の平均価格は七百八十円。加えて、英国やフランス、ニュージーランドなど約三十カ国では、公費で補うなどして実質無料で処方されているといい、「日本でも保険適用と公費助成で無償化の実現を」と求める。
 流産の処置に使えるよう望む声もある。産婦人科医で、京都大リプロダクティブ・ヘルス&ライツライトユニット長の池田裕美枝さん(42)は、英国滞在中の十年ほど前に流産を経験した。子宮内の組織を外に出すため、受診した医師の前でミフェプリストンを服用。後日入院した上で、今度は看護師の前でミソプロストールの量を徐々に増やしながら飲んだ。排出を確認して帰宅。自宅で残りを外に出して処置を終えた。
 「妊娠を終えた、という感覚を自分で持てる点が、手術とは違う。付き添った夫とともに、大事な経験だった」と池田さんは振り返る。流産は、医療機関で確認された妊娠の15%に起きるとされ、「経口薬を選べるようになることは大切だ」と期待する。
 池田さんは医師として、多くの中絶手術を行ってきた。そうした経験から、中絶を選ぶ理由や気持ちについて、医師はもっと患者と話す必要があると考える。「薬が承認されても、女性にとって中絶は安易にできるものではない。心理的な援助やケアを丁寧に行っていく必要がある」と話す。

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