白鸚の生き方、作品と同化 「ラ・マンチャの男」 来月ファイナル

2022年1月27日 07時32分

2012年8月の東京・帝国劇場公演での松本幸四郎(中)と松たか子(右)=東宝演劇部提供

 半世紀以上にわたりミュージカル「ラ・マンチャの男」の主演を続けてきた歌舞伎俳優の松本白鸚(はくおう)が、二月の東京・日生劇場でファイナル公演を飾る。七十九歳を迎え、「作品のテーマと俳優白鸚の生き方が一緒になってしまった」と語るほど大切にしてきた作品。その魅力と偉業を振り返る。 (敬称略、小原健太)
 米ブロードウェーで一九六五年に初演され、トニー賞ミュージカル作品賞などを受賞した名作。日本では白鸚が市川染五郎時代の六九年、東京・帝国劇場で主演したのが始まりで、翌年には“逆輸出”の形でブロードウェーで全編英語上演をした。

1969年の初演時の市川染五郎(現松本白鸚・篠山紀信撮影)

 セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」を原作に、教会を侮辱した罪で入獄した経験を持つ作家自身を登場させるのが作品の特徴。白鸚が務めるセルバンテスは囚人たちとの即興劇で、田舎の老人アロンソ・キハーナを演じる。そして、キハーナは自分を遍歴の騎士ドン・キホーテと思い込んでいる。
 劇中劇を盛り込んだこの三重構造により、失敗を恐れず理想を追い求めるドン・キホーテの気高さが、巡り巡って光を見失っていたセルバンテスを奮い立たせるさまが描かれる。一人で三役を演じきる白鸚は「負けると分かっている戦いでも、あるべき姿のために戦う心を失わない」とさまざまに挑戦を続けてきた自身と重ねる。
 八〇年ごろから同作を見続けている演劇評論家の萩尾瞳は「演じるというより、役になってしまうような熟し方が濃くなった」と語る。二〇〇二年以降の白鸚による演出については「ブロードウェーのオリジナル演出に基づきながら、作品の中を生きてきたからこそ見える登場人物の細やかな心理や行動が丁寧に表現され、目配りの利いた演出になっている」と評する。
 公演回数は通算千三百七回。二月六〜二十八日のファイナル公演は計二十五回が予定されている。
 同一俳優の主演による同一作品の舞台上演記録としては、森光子が八十九歳まで主演した「放浪記」の二千十七回が上回るが、萩尾は「ミュージカルは、長く演じるにはもう一つハードルが高い」と指摘する。せりふ劇と異なり、歌や踊りが主軸となるため体力の消耗が激しいからだ。二十六歳の初演から五十三年間も主演を張り続けてきた白鸚に、萩尾は「世界に例がないのではないか。破格の偉業だと思う」と称賛する。
 チケットの問い合わせは東宝テレザーブ=(電)03・3201・7777=へ。

◆娘の松たか子が10年ぶりヒロイン

制作発表でファイナル公演に向けた思いを語った松本白鸚(左)と松たか子

 ファイナル公演に先立ち、昨年12月に白鸚と娘の松たか子(44)が会見を開いた。松は10年ぶりにヒロインのアルドンザを演じる。
 作品の代表曲「見果てぬ夢」になぞらえ、自身の夢を聞かれた白鸚は「毎日毎日(の舞台を)やりこなすこと」と応じ、「続ける、ということが夢をかなえることだと思う。夢は見るだけ、語るだけのものではなく、実現しようとする心意気」と語った。
 同曲は、自身の主演による日本初演のきっかけをつくった父・初代白鸚と劇作家・菊田一夫(ともに故人)への「レクイエム(鎮魂歌)として歌っていた」とも。昨年11月に弟・二代目中村吉右衛門も亡くなり、「(ささげる相手が)残念ながら1人増えてしまった。けれどいつまでも悲しみに浸っていてはいけない。乗り越えて、はね返して歌いたい。お客さまに夢を与え、悲しみを希望に、苦しみを勇気に変えるのが俳優の仕事だと思っている」と言い切った。
 長年同じ役で出演する父を見る松は、「私はまだ、やりつづける役に出合うことは恐怖でしかない」。必ず訪れる演じられなくなる日を覚悟しながら毎日の舞台に臨まねばならないといい、「役があって、舞台があって、見る方がいるからやる。とてもシンプルな姿を、父を通して見せられている」と尊敬の念を述べた。

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