旧タリバン政権が破壊した「バーミヤン遺跡」の彩色画 「線図」で復活「アフガンの文化財守る機運に」

2022年1月27日 13時08分

アフガニスタン・バーミヤン遺跡の天井画の線図=正垣雅子准教授作成・宮治昭名誉教授監修

 2001年に大仏と共に爆破されたアフガニスタン・バーミヤン遺跡の彩色画を、宮治昭・名古屋大名誉教授(仏教美術史)らが「線図」の形でよみがえらせた。現存する線図より精密で縮尺が大きく、失われた文化遺産の詳細をこの世に取り戻した。シルクロードの要衝・アフガンで栄えた仏教文化の国際的な研究を後押しすることが期待される。(林啓太)

◆旧タリバン政権が大仏爆破した際に崩落

 彩色画は、5世紀中期〜6世紀後半に制作されたとみられる「天かける太陽神」。バーミヤン遺跡にあった釈迦しゃかの大仏を覆う天井に描かれていた。偶像崇拝を否定するイスラム教の教義を極端に解釈する旧タリバン政権が、01年に大仏を爆破した際に崩れ落ちた。

爆破される前のバーミヤン遺跡の天井画(下から見上げて撮影)=宮治昭名古屋大名誉教授提供

 馬車に乗ってマントを翻した太陽神は、古代イランの神「ミスラ」が原形とみられている。周りには女神アテナなどギリシャ神話の影響をうかがわせる神々も描かれ、異なる宗教をも取り込んだ仏教画は、「文明の十字路」といわれるアフガンの歴史を象徴。彩色画に描かれた神々をたたえる人物群は中央アジアの遊牧民族エフタルの有力者という説があるが、多くは謎に包まれている。
 バーミヤン遺跡と名古屋大との縁は古く、1960年代から現地調査を行っている。今回の線図の制作は宮治さんが監修し、京都市立芸術大の正垣しょうがき雅子准教授(仏教壁画模写)が描き起こしを担当した。名古屋大や京都大の調査隊が長年さまざまな角度から撮影してきた彩色画の写真計約180枚を合成し、現物の10分の1の画像を作成。これに縦115センチ、横133センチの和紙を重ねて透かし、墨で写し取った。写真ではっきり表れない線は、宮治さんが名古屋大調査隊員として69年に現地で描いたスケッチ画を参考にした。

名古屋大の宮治昭名誉教授

◆タリバン復権で再び文化財の危機

 彩色画の線図はフランスやアフガンの研究者らが作成した3点が残っているが、縮尺が小さい上に誤って表現された部分も多く、史料として限界があった。宮治さんらが作成した線図は彩色画の神々や人物を詳細に描写。現存している当時の硬貨の絵柄や肖像画と見比べることで、イラン、ギリシャ、インドとの交流史を解明する手掛かりとなる。
 旧タリバン政権は01年、2体の大仏を破壊した。宮治さんらはもう1体の大仏を覆っていた天井や壁の彩色画も線図として今秋までに制作し、将来はデジタル画像として公開する考え。アフガンでは昨夏にタリバンが復権し、イスラム教以外の文化財が守られるか再び危惧されている。宮治さんは線図の作成を通じて「タリバン政権下でアフガンの文化財を守る機運を高めることができれば」と願う。

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