相手によって姿勢が変わる?特捜部への不信が背景か 相次ぐ検察審査会の「起訴議決」

2022年1月29日 06時00分
 2019年参院選広島選挙区を巡る河井克行元法相らの大規模買収事件で、現金を受け取った側の県議らの公職選挙法違反容疑について「起訴相当」と判断した検察審査会の議決。「線引きはできない」と一律に不起訴とした東京地検特捜部の判断に対し、被買収者100人の個別事情を検討し、再捜査すべきという「市民感覚」を突き付けた。(奥村圭吾、三宅千智)

◆市民感覚で「責任」検討

 東京第6検察審査会が判断の基準としたのは、当時の立場のほか、返金や辞職などで一定の責任を果たしたかどうかだった。
 告発された県議や市議、首長ら公職者40人のうち、辞職も受領直後の返金もしていない28人は「自己の犯罪行為の重大性を認識しているのか疑問」と断じ「起訴相当」に。受け取ってすぐ全額返還した人は「不起訴相当」、辞職した人は「不起訴不当」にとどめたが、辞職しても受領額が多額だった当時の三原市長と県議の1人には「起訴相当」の判断を下している。
 一方、選挙スタッフや後援会員ら60人中40人も「不起訴不当」とし、検察に再判断を促した。300万円という「著しく高額な現金」を受け取っていた元議員秘書らは「悪質」として「起訴相当」と判断した。

◆検察内で今後の捜査への影響を懸念する声

 「金額、回数、立場などで線を引こうとしたが、必ず誰かに不公平が出る形になり、分水嶺を見いだせなかった」
 不起訴処分について、検察側はそう釈明していた。組織的な買収ではないことや、元法相から押しつけられるなどして、やむを得ず受け取っていた事情なども考慮しての一律起訴猶予だった。とはいえ、これまでも難しい線引きを経て政治事件を立件してきたのが特捜部だ。
 議決について、神戸学院大の春日勉教授(刑事訴訟法)は「非常に常識的な判断。民主主義の基盤を揺るがす行為に、有権者として『おかしい』と疑問を突きつけた」と評価する。

河井克行元法相(2021年3月撮影)

 特捜部が元法相の有罪判決後まで100人の刑事処分を先延ばしした点についても「河井氏の罪を裏付ける供述を得るため、不起訴をにおわせる『司法取引』的な話し合いが、検察と被買収者の間にあったことが推測される」と批判する。
 検察幹部は「受領者側が話してくれたことで初めて元法相の犯罪が表に出た。これを処罰すれば大きな事件はできなくなる」と漏らすが、今回の議決は「違法行為をすれば、処罰されるという事実を示してこそ、社会正義が実現される」と指摘した。

◆3月下旬に時効迫る被買収者も

 近年、検審が異を唱え、検察が判断を覆す例が相次いでいる。元東京高検検事長の賭けマージャン問題や菅原一秀元経産相の違法寄付事件も、検察は起訴猶予としたが、検審の起訴相当議決を受けて一転、略式起訴にした。
 元刑事裁判官で法政大法科大学院の水野智幸教授(刑事法)は「追及する権力によって姿勢が柔らかくなる特捜部への不信感が背景の1つにあるのでは」とみて厳格な再捜査を求める。
 被買収者の一部は3月下旬に時効を迎える。別の検察幹部は「検審が起訴相当か不起訴不当にした計81人に再聴取して一から考えるしかない」と話した。

関連キーワード


おすすめ情報

社会の新着

記事一覧