<食卓ものがたり>苦みほんのり 甘み際立つ 三重なばな(三重県北部) 

2022年1月29日 07時22分

寒空の下、三重なばなの収穫に精を出す内田義和さん(左)、和美さん夫婦=三重県四日市市で

 一月中旬、三重県北部の四日市市神前(かんざき)地区。西に位置する鈴鹿山脈から、東の伊勢湾へと「鈴鹿おろし」が吹き抜ける中、県の特産「三重なばな」の収穫が進んでいた。
 三重なばなは、アブラナの葉の付け根から出る長さ二十センチほどの脇芽(わきめ)。「今年は例年以上においしい」と、笑顔を見せるのは生産者の内田義和さん(81)、和美さん(74)夫婦だ。「ナイフで切った部分から出る汁で手がねばねばする。甘みが強い証拠」と言う。
 県北部は江戸時代からアブラナの栽培が盛ん。菜種油を採るためで「江戸の灯(あか)りは伊勢(三重県)で持つ」と言われたほどだ。食用として広まったのは、電気が普及して油の需要が減った一九五〇年代。それまで地元の農家だけが食べていたのを出荷し始めたところ、評判になった。
 脇芽の茎は軟らかく、葉は肉厚。カルシウムや鉄分を多く含み、くせもない。JAみえきた園芸畜産課の松岡高男さん(50)は「どんな食材にも合う万能野菜」と胸を張る。
 収穫の最盛期は二月中旬〜三月上旬だが、味が一番いいのは寒さが厳しい一月後半だ。県のブランド野菜「三重なばな」として一九八九年に種子が統一されて以降は、水稲の裏作として県内全域に生産が拡大。現在は年間四百トンほどが全国に出荷されている。
 ただ、脇芽に日の光が当たるよう外葉(そとば)をこまめに取り除く必要があるなど栽培は手間がかかる。真冬の収穫作業を敬遠する声も強く、作付面積はピークだった一九九六年の約四分の一。生産農家の高齢化が進む中、後継者の育成が課題だ。
 内田さん夫婦が栽培を始めたのは、二人とも仕事をやめた十年ほど前。冷たい風を受けながら、長時間、腰を曲げての収穫は正直こたえる。ただ、地域の味を引き継ぐ役割を担うことには喜びも。きょうも二人、力を合わせて畑を守る。
 文・写真 植木創太

◆味わう

 JAみえきたによると、菜の花(アブラナ科アブラナ属の花の総称)のつぼみを食べる地域は全国にある。しかし、脇芽を食べる習慣は四日市市に隣接する現在の桑名市長島町が発祥という。
 「三重なばな」の目印は「美(うま)し国みえの伝統野菜」の表示。旬のこの時季は全国のスーパーで、160グラムが200円弱で手に入るという。
 生でも食べられるが、加熱した方がよりおいしい。軽くゆがいた後にオリーブ油やサラダ油で炒めると、ほんのりとした苦みの中に甘さが際立つ。ベーコンや薄切り肉で巻いたり、みそであえたりするのもお勧めという。

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