<社説>NHK字幕問題 経緯の検証を徹底的に

2022年1月29日 08時09分
 NHKが昨年十二月に放送した「河瀬直美が見つめた東京五輪」で、事実と異なる字幕が付けられた。五輪反対デモが「金銭で動員されている」と誤解を与えかねない内容で徹底検証が欠かせない。
 問題となったのは、番組に出演した映画監督の島田角栄氏が男性を取材している場面。そこに「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕が付けられた。
 衝撃的な内容で議論を呼んだが、後にNHKが調べたところ、男性は「五輪と関係ないデモに参加し、金銭を受け取った」「五輪反対のデモに参加する意向がある」と話しただけだった。
 制作したNHK大阪放送局は「担当者の思い込み」と釈明し、前田晃伸会長も十三日に「不確かな事実を字幕にすることは、あってはならない」と謝罪した。
 NHK側は、十九日の経緯説明の中で「放送前に島田氏に確認した」と述べたが、今度は島田氏から「確認はなかった」と抗議があり、NHKは再度訂正する事態になった。お粗末すぎる。
 そもそも「金銭を伴う動員」というなら、しっかりした裏付けが必要だ。過去に別の番組で起きたやらせ疑惑を受けて作られたチェックシートは生かされなかったという。基本を怠った責任は重い。
 また、デモは市民の表現行為で自由社会では当然、尊重されるべきだ。なのに字幕では金銭を絡めて、デモに対する偏見を助長してもいる。この点も見逃せない。
 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、番組制作過程などについて、NHKに対して文書で報告を求めるという。当然である。NHKも専務理事を責任者とする調査チームを設置するが、第三者を加えた経緯の徹底検証が必要ではないか。
 だが、根はもっと深い可能性があろう。昨年四月、NHKは聖火リレーのネット中継で沿道からの「五輪反対」の声を消したことがある。共同通信の翌五月の世論調査で「五輪中止」を求める声が約60%に上っていた。NHKの姿勢には国民の反対意見を隠す意図さえ感じられ、批判も起きた。
 組織を挙げての「五輪推進」の空気が、今回の問題につながっていないか。チェック不足と矮小(わいしょう)化せず、事実と異なる字幕を付けるに至った経緯に迫ってほしい。

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