東京一極集中

2022年2月1日 07時32分
 日本国内の人口が減少する中、東京はじめ首都圏の人口は増加傾向にある。地域間格差の是正、国土の保全を考える上で、人口や国家機能が首都へ集中する現状をどうとらえるべきなのだろう。

<国内人口> 総務省の2020年国勢調査によると、同年10月1日時点の総人口は15年の前回調査より95万人近く少ない1億2614万6000人。39道府県で人口が減少する一方、東京、埼玉、千葉、神奈川、愛知、滋賀、福岡、沖縄で増加。首都圏の4都県で全人口のほぼ3割を占めた。65歳以上が占める割合は過去最高の28・6%だった。

◆限界超え弊害大きく 早稲田大教授・片山善博さん

 文化や科学技術の多くは、人口が集積する都市で生まれてきました。一定の集積に良い面があることは確かです。ただ、過剰な集積は負の側面の方が大きいと思います。コロナの感染拡大はその一つです。また、日本の生産性が落ちているのも、東京に集中しすぎた結果ではないかと私は推測しています。
 東京一極集中は限界を超えています。本当は、バブルが崩壊したころから変わるべきでした。バブル崩壊で日本経済は、甚だしい打撃を被りました。あのころから日本は、明治以来の統治構造も含め、国の在り方を変える作業を始めなくてはいけなかったのです。
 ところが、それはいまだに手付かずです。なぜか? 事態の深刻さに気付いていないからです。中央の政治や経済の中枢にいる人たちは、おそらく問題意識を持っていないでしょう。東京一極集中の下で成長してきた人たちですから。東京に集中している権限を分散しようという考えは全くありません。
 一方の当事者である地方の側にも問題があります。知事の中には権限移譲を口にする人がいますが、本気ではありません。コロナでそれがよく分かりました。本来なら知事が判断すべき事柄でも国の決定を求める。知事たちも中央集権の上に安住しているんです。
 地方分権は、自治体が持つ権限をフル活用するところから始まります。国が後から付いてくることもあります。私が鳥取県知事をしていた二〇〇〇年に大地震がありました。当時、国は住宅再建支援などしてはいけないと言っていたのですが、県が市町村からの一部負担も得て独自に支援制度をつくりました。今では国も制度化しています。
 デジタル化にしても、国が全国共通の構想をつくって押し付けるのなら失敗するでしょう。国には東京目線の発想しかできません。ドローンやITを使って水田を管理する「スマート農業」の普及などは、農村の実態をよく知らない人の発想です。
 国からどんな政策が下りてくるのかと、霞が関の方ばかり見るのはやめ、自分たちで考えて自分たちで決める。東京の人たちが言うことも少しは聞くけれど、言いなりにはならない。そんな気概と力量が必要です。小さな町村では無理でも、例えば名古屋を中心に中京圏がまとまればできるはずです。(聞き手・越智俊至)

<かたやま・よしひろ> 1951年、岡山県生まれ。鳥取県知事、総務相などを歴任し、2017年から現職。専門は地方自治論、地方税財政論。著書に『日本を診る』『知事の真贋』など。

◆分散の動き、民間から 信州大特任教授・鈴木幹一さん

 経済合理性を重視する経済学の視点からすると、一極集中は理にかなっています。だから高度成長期以降、東京に人が集まり、人口は膨れ上がりました。
 近視眼的に見れば、それでいいのかもしれませんが、日本全体ではどうでしょう。若者がみな東京に行ってしまえば地方は疲弊します。どうしたら地方に戻ってもらえるか。それが日本の課題でした。コロナで価値観が変わった今こそ、東京一極集中の是正を考える好機です。
 テレワークの普及、ビジネス慣習の変化などにより、以前は目上の人や初対面の人との打ち合わせの場合、会って話すのが当然でしたが、会わなくてもよくなりました。どこにいても仕事はできますので、地方移住が注目されてきました。
 例えば軽井沢の場合、コロナ禍以前から移住者はいました。かつては引退したシニア層が中心でしたが、十五年ほど前からは、豊かなライフスタイルを求めて移住する現役世代の人が急増しています。そこにテレワークという手段が普及した。コロナが収束しても移住者が減ることはないと思います。
 コロナが企業に突き付けたのは、リスクマネジメントの重要性です。拠点も社員も一カ所に集まっていると、何か起きたときに被害が大きい。だから、分散の重要度が高まります。株主もそれを要求するでしょう。
 企業にとって、テレワークも含めて柔軟な働き方ができる体制を整えなければならない理由がもう一つあります。柔軟な学び方が当たり前のZ世代と呼ばれる若者たちは、柔軟な働き方ができない会社には入りたくないと、はっきり言います。人材確保のためにも企業は変わらざるを得ないのです。
 もちろん、企業が変わるだけでは東京一極集中の是正にはつながりません。地方の魅力をもっと高める必要があります。その点では、総務省の「地域おこし協力隊」派遣事業に注目しています。地方の人は地元の魅力に気付きにくいので、外からの目線は貴重です。そういう人的交流などの取り組みが複合的に重なって、分散への動きになると思います。
 リスク分散の観点から言えば狭いエリアに省庁が密集する霞が関は好ましくありません。ただ、そこはすぐには変わらないでしょう。官より民からムーブメントが起こると思います。(聞き手・越智俊至)

<すずき・かんいち> 1957年、東京都生まれ。エステー取締役を経て現職。23年間、長野県軽井沢町と東京の2拠点居住を続け、広域観光連携やテレワーク・ワーケーションの普及活動にも取り組む。

◆圧倒的にプラス多い 明治大名誉教授・市川宏雄さん

 一般的に、人は物や人が一カ所に集まることを好みません。混雑は良くないという先入観がある。それなのに東京への集中は起きてしまった。それには理由があり、結果的にマイナスよりプラスの方が圧倒的に多いということが明らかになってきています。集中を悪とする意識は変えるべきなのです。
 私も最初からそう考えていたわけではありません。都市政策の研究者として、一九六二年に第一次が計画策定された全総(全国総合開発計画)の「国土の均衡ある発展」という理念に共感し、実現を夢見ていました。
 ところが、ある時期から「この理念は違うんじゃないか」と思い始めた。とりわけバブル経済の崩壊後。日本経済が沈んでしまった時、東京への規制緩和による集中投資でよみがえった実績を見てしまったのです。
 六〇年代の「均衡ある発展」が想定する主要産業は第二次産業、工業でした。しかし、八〇年代、世界同時進行でしたが、日本の主要産業は第三次産業、サービス業に一気に変わりました。第三次産業は工業と違い、集積が多いほど利益を生みやすいという特徴があります。その結果、連邦国家の米国などは別ですが、各国で第一位都市に人が集まった。日本だけがおかしいわけではないのです。
 産業構造の変化の中、これからも東京への集中が進むことは確実です。コロナでも状況は変わりませんでした。二十代の若者、とりわけ女性が次々とやって来る。東京に魅力があるからです。地元の魅力を高める努力をしないで、「一極集中は悪だ」と言い続けても意味がない。現実を直視すべきです。
 東京圏は国連の統計で世界最大の都市圏ですが、江戸も十八世紀に世界最大の百万人都市でした。幕藩体制は連邦国家のように見えますが、実は強大な中央集権。参勤交代で人を集め、地方の商人を江戸に寄せ、金も集めた。都市改造のきっかけになったのは一六五七年の明暦の大火で、日本の建物が木造だからできた大改造でした。明治に入って集権をいっそう強め、京都から天皇が移り住んだ。それが東京の今のポテンシャルを形作っています。
 大都市の集積傾向は先進各国で起きています。今や国家間ではなく、都市間の競争が国の命運を握っている。日本全体のためにも東京への投資に意味があるのです。(聞き手・大森雅弥)

<いちかわ・ひろお> 1947年、東京都生まれ。専門は都市政策など。30年以上にわたり都の政策立案に関与。東京と大都市圏に関する著書は『東京一極集中が日本を救う』など30冊以上。


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