スペインを代表する芸術家ミロ 日本の手作り凧の魅力を孫に熱弁

2022年2月7日 06時00分
<連載・ミロが見た日本㊤>
 青さをたたえる地中海を見渡せる窓から、まばゆい陽光がキャンバスに注ぐ。
 スペインを代表する芸術家ジョアン・ミロ(1893~1983年)は故郷カタルーニャ地方を弾圧したフランコ独裁政権から逃れ本土の東に浮かぶマジョルカ島にアトリエを構えた。
 「高価な芸術品より簡素な手作りの作品にこそ価値がある」。常々そう語っていたミロは、世界の手工芸品を手元に置き、創作意欲をかきたてていた。こけしや木彫りの人形、はけ、たわし…。アトリエの棚には数多くの日本の品も並ぶ。

◆「祖父がどれだけ日本を愛しているかが伝わってきた」

スペイン・マジョルカ島のアトリエで、日本の連凧を手に思い出を語るミロの孫ジョアン・プニェットさん=谷悠己撮影

 「天井からつり下がる姿が魔物に見え、恐怖を覚えた」。ミロの孫ジョアン・プニェット(53)は少年時代、アトリエに隣接する祖父の書斎で伝統的な連凧を目にした時の衝撃を忘れない。「日本の天然素材で手作りされた凧の魅力を丁寧に説明する口ぶりから、祖父がどれほど日本を愛しているのかが伝わってきた」
 日本美術ブーム「ジャポニスム」を巻き起こした万国博覧会の開催5年後のバルセロナに生まれたミロ。20代前半、美術学校の親友に贈った肖像画には浮世絵をコラージュした。西欧の美術品を賛辞する時には「優雅で、日本的だ」という表現も使っていた。
 生家のすぐ近くに複数の日本美術店があった事実を明らかにしたバルセロナ自治大准教授のリカル・ブル(40)は「ミロは幼いころから日本に強い関心をもっていたはずだ」と話す。

◆蔵書に岡倉天心、柳宗悦…「日本人の精神性に理想見いだす」

 ミロが遺した蔵書には岡倉天心の「茶の本」や柳宗悦の「日本の民芸」といった日本文化の古典も並ぶ。美術評論家として祖父を研究するプニェットは「静寂や無、自然、手作りの心を大切にする日本人の精神性に自らの理想を見いだしていた」と想像する。
 プニェットは、マジョルカのアトリエで象徴的な場面を目撃している。制作中だった彫刻の部材を愛犬が踏んで壊したのを見たミロは「何て素晴らしいんだ。修理せず、このまま使おう」と叫んだ。
 「突然のハプニングもありのまま受け入れるのは禅の境地。祖父の作品にはこうした日本の精神性がにじみ出ている」(敬称略)
 ◇
 20世紀スペインの三大巨匠としてダリ、ピカソと並び称されるミロ。東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで11日から始まる「ミロ展―日本を夢みて」を前に、母国でミロと日本の絆を追った。
 (この連載はパリ支局・谷悠己が担当します)

おすすめ情報

国際の新着

記事一覧