NHK五輪番組の虚偽字幕問題 河瀬直美さんは市民団体の公開質問状に回答せず

2022年2月15日 20時09分
 昨年末に放送されたNHKの番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」で、五輪反対デモの参加者が金銭をもらって動員されたとする偽りの内容の字幕が流された問題を巡り、実際にデモを行っていた市民団体「オリンピック災害おことわり連絡会」は15日、映画監督の河瀬直美さんらに送った公開質問状について、回答がなかったと明らかにした。(デジタル編集部・瀧田健司)

NHKのウェブサイトより(スクリーンショット)

 この番組は、五輪公式記録映画で監督を務める河瀬直美さんら撮影スタッフにNHKが密着取材した内容。撮影スタッフの島田角栄さんが匿名の男性をインタビューしている場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕が付けられた。放送後に抗議が殺到したことを受け、NHKが事実確認したところ、男性が東京五輪反対デモに参加したかどうかを担当ディレクターが確認していなかったことが判明した。
 市民団体「オリンピック災害おことわり連絡会」は1月末、河瀬さんと島田さんに対する9項目の質問状をまとめ、奈良市にある河瀬さんの映像制作会社「組画くみえ」に郵送とFAXで送付。これまでNHKは「番組の取材・制作はすべてNHKの責任で、河瀬さんや島田さんに責任はありません」との説明を繰り返しているが、同団体はNHKの対応を「2人に批判の矛先が向かわないように、担当者のチェックミスで幕引きを図ろうという思惑が働いているのではないか」と疑問視。
 問題の場面は島田さんがインタビューを主導しているという点、番組内で島田さんが撮影した素材映像を河瀬さんに見せている場面が映っている点、島田さんが「プロの反対側もいてるし」と発言している点などから「NHKによる捏造に2人が加担したことは明白だと考える」と主張している。
 回答期限は11日だった。同団体によると、連休明けの14日に「組画」に電話してあらためて回答を求めたが、15日午後までに折り返しの電話がなかったという。

◆市民団体による質問項目は次の通り

1.島田氏が当該男性に最初に取材を申し込んだのはいつで、どこですか?
2.五輪記録映画の取材なのに、五輪反対デモに参加していると確認できない男性を取材したのはなぜですか?
3.河瀬氏も島田氏も「NHKの放送内容は公式記録映画チームの取材した内容と異なる」と述べていますが、実際に男性に取材した内容はいかなるものでしたか? なぜ明らかにされないのですか?
4.島田氏の数ある取材対象の中から、当該男性の取材にNHKが同行することになったのはなぜですか?
5.オンエアされた番組の問題のテロップを最初に見たのはいつですか? それ以降、なぜすぐにNHKに抗議せず、沈黙していたのですか?
6.「プロの反対側」とは、具体的にどのような人々のことを指すのですか?
7.改めて、島田氏が撮影し、河瀬氏がチェックされた素材映像の中に、当該男性が映ったものが含まれていたのではありませんか?
8.島田氏の取材が今回のねつ造の要因になったことを考えれば、五輪反対デモの主催者や参加者に対して、島田氏と河瀬氏からも謝罪がなされるべきと考えますが、それが行われていないのはなぜですか? また、今後謝罪される意志はありますか?
9.NHKによるねつ造に加担された以上、公式記録映画の製作は断念されるべきと考えますが、いかがですか?

◆NHK、河瀬さん、島田さんの3者ともに「素材映像に男性は含まれていない」

 本紙デジタル編集部は、河瀬さんと「組画」のウェブサイトからこの件について問い合わせたところ、2月8日に組画広報部の名義で「1月10日にメディアを通してお伝えしたことが現状の全てでございますので、今後、BPO審議に入る可能性もあり、現在のところ個別の質問に回答する予定はございません」と回答があった。
 河瀬さんは1月5日に自身のTwitterで、番組の内容を擁護する主旨の視聴者からの投稿に対し、賛意と受け取れる返信をしている。
 しかし、9日にNHKが字幕の内容に裏付けがなかったことを発表すると、10日付で「公式映画の取材で、当該男性が『お金を受け取って五輪デモに参加する予定がある』という話が出たことはありません」「担当監督(島田さん)が取材のまとめ映像を私に見せるという場面がありましたが、この映像にも当該男性は含まれていません」「公式映画チームが取材をした事実と異なる内容が含まれていたことが、本当に、残念でなりません」などとするコメントを公表し、釈明していた。
 一方、島田さんは本紙デジタル編集部の問い合わせに「こちらの団体の方からは質問状が届いていない」と回答した。
 島田さんは番組放送直前の12月26日、自身のTwitterで「夜10時からオンエアです」「島田もまだ見ていないので不様な姿が映ってなければ良いのですが」などと投稿しており、事前に番組内容を確認していないことを示唆している。
 放送後にTwitter上で問題の字幕が付けられた経緯を視聴者から質問されると、31日に「編集はNHKに任せております。NHKにご連絡頂けると助かります」と返信。その後、河瀬さんと同じく1月10日付で「(問題の字幕が付けられた男性から)五輪のデモに参加したという主旨の発言はなかったにも関わらず、オンエアされたテロップを見て驚いた」「男性の取材映像を河瀬監督に見せた事実はありません」とするコメントを出していた。
 番組内では、島田さんから素材映像を見せられた河瀬さんが取ったメモに「パンクshop店主」「町の変なオヤジ」などと取材対象者を羅列したと読み取れる記述が映っている。
 河瀬さんと島田さんは、その素材映像の中に問題の字幕が付けられた男性は含まれていなかったと主張する。だが、なぜ男性を取材したのか、男性からどのような話を聞いたのか、詳しい経緯までは明らかにしていない。
 NHKが2月10日に発表した内部調査チームの報告書によると、五輪開会式があった昨年7月23日、通りすがりの男性が取材中の島田さんに声をかけ、その場で後日にインタビューする約束をしたという。
 報告書では「問題となった字幕のシーンに登場する男性は、五輪に対する多様な声を取り上げたいとして、NHKが取材した約10人の中からディレクターの判断で選択した。この判断に公式記録映画の関係者は一切、関わっていない」「様々な立場の人から見た東京五輪を撮影しようと努力する映画スタッフの様子を入れたいと考え、その一場面として入れた」などと、NHKの番組内でこの場面を使用した理由については抽象的な言い回しの記述があるが、なぜ「五輪反対デモは金銭で動員された」という要素を入れようとしたのか具体的な説明は見られない。また、島田さんが公式記録映画の素材として、どのような意図でこの男性を取材したのかは触れられていない。
 放送されていない部分のNHKの撮影素材には、男性が「五輪反対デモは行かない」という主旨を話す音声が残されていた。
 NHKの聞き取りに担当ディレクターは、カメラを止めた状態で「(男性から)五輪反対デモに参加する可能性はあるという話を聞いた」と説明したというが、撮影が行われたのは五輪閉会式が翌日に迫った8月7日だった。撮影場所は南千住駅が最寄りにある台東区の山谷地区で、番組内では島田さんが公式映画の素材映像を編集しているモニターの画面に「8月7日 南千住 浅草」と読み取れる文字が見える。
 NHKは報告書で、島田さんが河瀬さんに素材映像を見せている場面について「当該シーンの男性は含まれていない」とあらためて強調。「プロの反対側もいてるし」という島田さんの発言については「強い思いをもってデモに参加している人たちのこと」と説明している。
 放送倫理・番組向上機構(BPO)の 放送倫理検証委員会は10日、同番組に放送倫理違反の疑いがあるとして、審議入りを決めている。

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