詩、水墨画、書…訪日で得た宝から吸収したミロ 「日本の精神性」探し求める

2022年2月9日 06時00分
<連載・ミロが見た日本㊦>

◆茶陶の大家・加藤唐九郎を訪ね、詩人の滝口修造と語らう

「長い間、日本のことを夢見続けてきた」。1966年9月、東京の羽田空港。73歳になって初来日したミロは、記者会見で万感の思いを口にした。
 歌舞伎や相撲に興じ、京都や奈良の名刹めいさつを巡る。同行した陶芸家ジョアン・ガルディ・アルティガス(83)が保管するアルバムには20日余りの滞在を存分に楽しむ姿が残る。一方で、ミロは「日本の精神性」も探し求めた。
 その一つが、自らも手掛けた陶芸の産地探訪だ。茶陶の大家、加藤唐九郎を名古屋の自宅に訪ね、京都から滋賀の信楽しがらきへ足を延ばす。ジョアン・ガルディは「信楽では、田畑や日本の伝統的な農村の風景に感動していた」と思い返す。

バルセロナのミロ財団で、ミロが保存していた水墨画の紹介記事の切り抜きを眺めるマルコ・ダニエル館長=谷悠己撮影

 待ち望んだ出会いも実現した。ミロの芸術を紹介する作品集を40年、世界で初めて出版した美術評論家で、詩人の滝口修造とは銀座の画廊で語り合った。
 「詩から創作の着想を得ていたミロにとって、滝口の詩は日本人の精神性を理解し、作品に反映させる上で重要な役割を果たした」。バルセロナのミロ財団の館長マルコ・ダニエル(57)がそう語るように、2人の世界観は後日、詩画集の共作という形で融合する。

◆「日本製の画材のおかげで精神が解き放たれた」

 ミロは「日本」を取り込むための準備も怠らなかった。同財団の収蔵庫には、西欧で高く評価された江戸後期の禅画家、仙厓義梵せんがいぎぼんの水墨画「○△□」を解説する新聞記事の切り抜きなども保存されている。
 訪日中に水墨画や書家による実践を目の当たりにしたミロは、帰国直後の66年11月4日、縦2メートル近い絵画を完成させた。大胆に飛散する黒色は書を連想させる。「ひとつひとつの線が時に命を生み、時には不完全なものになる。蓄積した知識だけでは理解できない部分を日本の書家から吸収した」とダニエルは言う。
 日本から形として得た物もある。ミロが「日本製の画材のおかげで精神が解き放たれ、夜に思い描いた創造性を昼間、作品に反映することができる」と話しているのを聞いた孫のジョアン・プニェット(53)には、忘れられない光景がある。
 最晩年のミロがアトリエに座り、日本製の筆とインクを手に和紙と静かに向き合う姿。「祖父の頭の中には、いつも日本があった」(敬称略)=おわり
 ◇   ◇
 「ミロ展―日本を夢みて」は11日に東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開幕します。

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