<わたしの転機>師の思い 伝え残す使命 生活用品メーカー勤務から1人で出版社を立ち上げ

2022年2月9日 08時30分

「本というツールで面白い社会をつくるお手伝いをしたい」と話す田口京子さん=横浜市で

 大手生活用品メーカーの花王(東京)でキャリアを重ねてきた田口京子さん(56)=横浜市=は4年前、1人で出版社を立ち上げた。未知の世界への不安もあったが、師事する中国伝統気功の第一人者の本を世に出したいとの思いが勝った。「読んだ人の世界を広げられる1冊を」と、丁寧な本作りに取り組む。 (小林由比)
 大学では物理分野の研究をしていました。就職活動の時期、たまたま手にした使い勝手のよい折り畳み歯ブラシが花王の製品と知り、「こんな丁寧な物作りができる会社で働きたい」と入社試験を受けました。
 店の売り場で購入者に話を聞いて効果的なプロモーションを探ったり、ブランド戦略を考えたりする仕事や、「美しさとは何か」の研究などもしました。どの仕事も面白く、やりがいもありました。
 五年ほど前、師事する中国伝統気功の盛鶴延(せいかくえん)先生が集大成ともいえる本の編集の手伝いを求めていると聞き、「私がやります!」と手を挙げました。
 日本で約三十年、気功を伝えている盛先生。考えは深く、簡単に理解できることばかりではありません。ですが、十五年前に気功体験で先生に出会って以来、持って生まれた限りあるエネルギー(気)を自分はどう使っているだろう、などと生き方に思いを巡らすような変化をもたらしてくださり、素晴らしい人だと感じていました。
 先生がボイスレコーダーに吹き込んだ百六十時間にも及ぶ話を文字に起こすと、命をかけて伝え残そうとする思いが伝わってきました。「私には、これをきちんとした形で世に出す使命がある」。そう感じたのです。
 思いが強い分、大手出版社から大量に出る本の中の一冊になることへの違和感が拭えません。モヤモヤした思いを伝えると、先生は「あなたが出版してくれたらいい」と。仕事には満足していたのですが、こういうふうに進路は決まるんだなと腹をくくりました。
 出版の仕事を知らないまま、「良い書物は二百年後にも読まれる」との先生の言葉を実現すべく、花王を退社し、二〇一八年一月に一人で出版社「KuLaScip(クラシップ)」(東京都世田谷区)を立ち上げました。同年七月に先生の本を出すことができ、これまで三冊を出版しました。
 注文後に出荷する制度など、「ひとり出版社」でもやっていける流通ルールの変化もありました。まだまだ小舟のような小さな出版社ですが、「新しい、面白い社会をつくりたい」という人たちの思いを乗せ、届け続けていきたいです。

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