ペイシェントハラスメント もう我慢しない 患者や家族から医師らへの暴力、暴言

2022年2月11日 07時14分

埼玉県の春日部市立医療センターに張られているポスター

 昨年末に大阪のクリニックで二十五人が犠牲になった放火殺人や、先月末に埼玉で医師が殺害された立てこもりなど、医師らを狙った事件が相次いでいる。医療従事者が患者や家族から受ける暴力・暴言は「ペイシェント(患者)ハラスメント」(ペイハラ)と呼ばれ、各地で深刻化。コロナ禍で医療現場の負担も増す中、各病院は対策に追われている。 (細川暁子)
 「迷惑行為はお断り!!」。埼玉県春日部市立医療センターは、職員らが暴言や暴力、器物損壊や不当要求を受けた場合、警察に通報すると書いたポスターを掲示している。医事課長の桑原隆さん(53)は「公立病院は患者を診るのが当たり前という風潮で職員らは我慢してきた。だが、職員を威嚇する患者が増えてきて対策を迫られた」と話す。
 三年前、院内に「トラブル対策委員会」を設け、ポスターの掲示も始めた。ホームページには、「大声を出して怒鳴る」「土下座させる」「診療の順番を繰り上げるように強要する」などの行為をした患者は強制的な退院や退去となる可能性があることを明記した。
 迷惑行為に対する職員向けのマニュアルも作成。患者らが大声を出すなどした場合には、体格のいい男性職員らが六人以上で、さすまたを持って駆けつけ、暴力行為があれば警察に通報する。
 名南経営コンサルティング(名古屋市)の社会保険労務士、服部英治さん(50)は「新型コロナウイルス流行後、病院からペイハラの相談が増えた。感染対策などを巡り、患者が職員にクレームを言うなどして疲弊させている」と指摘する。
 長崎県医師会が二〇二〇年にまとめたペイハラに関する調査結果では、県内七十二病院のうち約七割の四十九病院が「被害があった」と回答した。同県では約五年前、長崎大病院を中心に複数の病院で「ペイシェント・ハラスメント研究会」を設立。各病院は研究会が作ったポスターを張り、職員らが診療時間外は病状説明などに対応しないことを明記している。警察OBを配置したり、暴力などがあった場合は警察に通報することを院内放送で知らせたりしている病院もある。
 研究会を設立した長崎大名誉教授で佐世保市総合医療センター院長の増崎英明さん(69)は「同じ地域の複数の病院が一斉にペイハラ対策に取り組むことが抑止力になる」と話す。

◆犯罪にあたる可能性 「お客さま」感覚が背景に

 医師法では、「医師は診療を求められた際、正当な理由なく拒否できない」との「応召義務」が定められている。ただ、ペイハラに詳しい弁護士の福崎博孝さん(67)=長崎県弁護士会所属=は「患者の命に関わる場合を除き、医療従事者らの命や精神を脅かしたり、業務妨害したりする明確なペイハラは、診療拒否の理由となる」と話す。病院側が患者に「迷惑行為を二度としない」と誓約書を書かせ、それでも迷惑行為を繰り返す場合は、以後の診療を拒否したり、院内への立ち入りを禁止したりする例もあるという。
 ペイハラをした患者は脅迫や威力業務妨害などの罪に問われる可能性がある。損害賠償責任を負うことも。福崎さんは医療訴訟などが増え、患者側の権利意識や「お客さま」感覚が強くなったことなどが背景にあると指摘する。「ペイハラは医療現場の就労環境を悪化させるだけでなく、結果的に医療従事者たちが辞めれば医療の質も低下する。患者側は、自分がペイハラをしていないか意識して行動を」と呼び掛ける。

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