最年少の藤井五冠、長時間対局で際立つ強さ…「常に最善手追求」と森内俊之九段

2022年2月12日 20時54分
史上最年少での五冠を達成した藤井聡太新王将(日本将棋連盟提供)

史上最年少での五冠を達成した藤井聡太新王将(日本将棋連盟提供)

 将棋の王将戦7番勝負を制し、最年少で五冠を達成した藤井聡太新王将(19)=竜王、王位、叡王、棋聖。前竜王の豊島将之九段(31)に続き、渡辺明名人(37)=棋王=にも4連勝で圧倒した。これで2日制のタイトル戦の成績は16勝1敗となり、特に長時間の将棋での強さが際立つ。その理由を、永世名人の資格を持つ森内俊之九段(51)は「常に盤上の『正しさ』を追究する姿勢によるもの」と指摘する。

◆序盤から「最善手」積み上げる

 藤井五冠の通算勝率は8割3分5厘(12日現在)と歴代棋士の中でも飛び抜けて高いが、持ち時間各8時間の2日制対局では9割4分1厘と、さらに跳ね上がる。1日制対局で最も持ち時間の長い順位戦(各6時間)でも、勝率は9割4分1厘と全く同じ数字だ。
 藤井五冠自身も、王将獲得後の記者会見で「自分は中盤で時間を多く使うことが多いので、2日制のような長い持ち時間の将棋は戦いやすい部分がある」と回答。「子どものころから長考派でじっくり考えるのが好きだった」とも述べた。
 
 全棋戦のうち持ち時間が最長(9時間)の名人戦で活躍した森内九段は、長時間の対局について「藤井さんのように序盤から正しい手を積み上げて勝つタイプが力を発揮しやすい」と分析する。勝利の追求が最優先の棋士たちは、必ずしも「正解」にこだわらず、自分の得意戦法や経験が生きる形に誘導するケースも多い。しかし藤井五冠は「相手のミスに頼る勝ち方をせず、地力勝負に持ち込んでいる」。
 森内九段自身も「先行逃げ切り型で、長い時間の方が力を出し切れる」と語る。しかし「自分と藤井さんとの最大の違いは終盤力」とも明かす。「混戦になった時、最後の最後で抜け出す力が藤井さんは抜きんでている。終盤に大きなミスをしないという自信が背骨となり、序中盤の安定した思考を支えているのでは」
 1996年に全七冠(当時)を制覇した羽生善治九段(51)の場合、実はタイトル戦では2日制より1日制の方が獲得率、勝率とも高い。大舞台で何度も戦ってきた森内九段は「羽生さんは瞬発力が高く、長距離というより中距離に強いタイプ。序盤は相手に先行されることもあり、逆転の難しい長時間の将棋より、適度な持ち時間の方が向いているのでは」と解説する。

◆得意戦法が「弱点」になる時代

 こうした藤井五冠のスタイルは、時代にマッチした戦い方でもある。かつては難解な局面で何が「正しい手」なのかは、プロ棋士ですら分からなかった。しかし人工知能(AI)を活用した研究が深化した現代は、AIが形勢判断を数値化し、ある程度の「正解」を得ることができる。
 森内九段は「今の時代、得意戦法や棋風を持つということは弱点にしかならない」と言い切る。棋風には「攻め将棋」「受け将棋」などがあり、棋士の個性ともいえる概念だが、「正解」を求める上では先入観にもなり得るという。「藤井五冠は特定の得意戦法やこだわりを持たず、常に最善手を追い求める。非常に合理的な将棋で、多くの若い棋士が後に続くだろう」と評価する。
 確かに藤井五冠は昨年末、同世代の囲碁棋士、関航太郎天元(20)との本紙での対談の際、「(対局中)考える上で、読みと形勢判断以外のものは基本的にいらない」と言及。勝負に大きな影響を与えるとされてきた「経験」や「勝負勘」といった要素に依存しない考えを明かしている。どんな局面でも思考を固定化せず、前例を疑う姿勢が、多くの棋士を驚がくさせる一手を生むのだろう。
 現状の藤井五冠の強さは「まだ到達点ではない。ますます強くなるのは間違いない」と森内九段。一方で「今はAIから学ぶことで棋士がどんどん強くなっていく時代。藤井さんは最先端を走っているが、競争は激しくなるだろう」とも予測した。全八冠制覇まで、藤井五冠は駆け抜けることができるか。積み上げていく最善手の先に、その答えはある。(樋口薫)

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