費用対効果が悪すぎるマイナンバー制度事業…国は検証不十分

2022年2月13日 09時00分
 利便性の向上や業務効率化につながると国が旗を振ってきたマイナンバー制度。その要となる情報連携の利用が、想定を大きく下回っていた。多額の税金を投じる一方で、費用に見合うだけの効果を生んでいるのか、国は費用対効果を十分検証しないままだ。
 2021年3月の衆院内閣委員会で、当時首相だった菅義偉氏は、マイナンバー制度に関して国が支出した費用は過去9年間で8800億円に上ると明らかにした。野党から「コストパフォーマンスが悪過ぎるのではないか」と指摘されると、菅氏はこう語った。「確かに悪すぎる」
 それから1年、マイナンバーカードの普及率はいまだ4割程度だ。国はカード普及のため、さらに1兆8000億円を投じようとしている。カードのメリットを盛んに強調するが、その費用対効果にまで言及することはほとんどない。
 費用対効果に触れたがらないのは、中間サーバーというシステムを通じて行政事務に必要な個人情報をやりとりする「情報連携」においても同様だ。
 情報連携が始まった翌年の18年5月、内閣官房はマイナンバー制度の効果を試算し、政府のIT関連の有識者会議に示した。

内閣官房が試算したマイナンバー制度の効果。「事務効率化」「発送費」などの項目が列挙され、数値化されている

 試算結果をまとめた資料には、年間の効果として行政機関には「1798億円程度」、国民や事業者には「2629億円程度」と算出。内訳として、住民票の写しなどの発行や文書照会の削減で「事務効率化565億円」、各種証明書の発送費削減で「85億円」などと記されていた。
 ただし、実際の効果は判然としない。その後の有識者会議の議事要旨を調べても、国が検証した形跡は見当たらない。マイナンバー政策の司令塔であるデジタル庁に確認しても、12日までに回答はなかった。
 自治体に現場の実情を聞いてみた。神奈川県内の自治体担当者は「情報連携で全体として現場の事務負担は減った」が、別の負担が生じるようになったという。例えば、国民健康保険料を算出する際、これまでは証明書を1度提出してもらえば事足りたところ、個々の情報ごとに関係自治体に照会しなければならなくなった。
 情報連携の効果について「答える立場にない」とする地方公共団体情報システム機構は、18年度に研究会をつくり、自治体職員から効果や課題を聞き取っていた。機構は「自治体限定で共有している情報なので中身は言えない」として、研究会での議論を明らかにしていない。

◆国の想定は残り1年で「ほぼ全ての国民がカード持つ」

マイナンバーカードの表面(見本)

 マイナンバーの利用を巡っては、カードの普及でも、「2023年3月末までにほぼ全ての国民が持つ」という国の想定と大きな開きがある。政策をけん引してきた関係者は、残り1年での目標達成は難しいと認める。
 カードの交付が16年に始まって以降、発行枚数は一貫して低調だった。国がてこ入れ策の柱としたのが、マイナポイント事業だ。カードを取得した人に最大5000円分のポイントを付与する第1弾の事業の結果、発行枚数は急上昇。今年1月に5000万枚を突破し普及率は41%に達した。
 この成功体験を受け、最大2万円分を還元する第2弾として事業費1兆8000億円余が、昨年末成立の21年度補正予算に盛り込まれた。政府内でも「選挙目当てのばらまき政策だ」との批判は根強い。
 国の想定を達成するにはあと1年あまりしかなく、残る6割の国民がカードを取得する必要がある。マイナンバー政策に携わってきた関係者は「ポイントの威力は大きい。私の想定以上の伸びだ」と誇るものの、達成について問われると「政府想定は高めだ」とぶぜんとした表情を浮かべた。
 制度設計に携わった別の関係者も「想定は過大に設定されている」と認める。たとえば、カードが普及する前提で制度を進めなければ、医療関係者らに設備投資などの負担を強いる健康保険証との共通化なども難しかったという。「目標を下げると周囲の人たちが付いてこない」というのだ。
 ポイント制度だけでなく、カード普及に向けてあらゆる費用を公費負担しているのが現状だ。かつての住民基本台帳カードは発行手数料が必要だったが、マイナンバーカードの場合は取得にかかる費用は原則ゼロ。この関係者は「一気に進めないと普及のチャンスを失うという意識が強くある」と話す。

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