バス運転手らの過労対策案 休息「11時間」が企業抵抗で「9時間」に 睡眠不足で「乗客らの安全に疑問」

2022年2月16日 06時00分
 バスやタクシーなど運輸業界で働く運転手の過労防止策が後退の危機にひんしている。勤務終了から翌朝の勤務開始までの休息時間について、「11時間」の国際基準に会社側が抵抗したことから、厚生労働省が「9時間」に縮める案を示しているためだ。運転手の過労による事故が増える中、識者は「乗客らの安全が確保できない懸念がある」と同省の対応を疑問視する。(池尾伸一)
 運輸業界の過労対策は厚労省審議会専門委員会で、経営者や労働組合代表も参加して論議中で、3月末までに正式決定する。
 現在の休息時間は1989年に出された告示で「最低8時間空ける」と定められている。午後9時に勤務が終わった場合、翌日の早朝5時からの勤務も認められ、ルールが甘すぎるとの声があった。
 睡眠が短いと心臓まひや脳疾患のリスクが高まるため、厚労省は6時間程度の睡眠が必要と判断。通勤や食事時間も考慮し「最低11時間の休息時間は確保する」との案を昨年10月にまとめた。欧州連合(EU)規制や国際労働機関(ILO)勧告も「11時間」となっている。
 しかし、委員会で運輸業界の経営者代表らが「運行計画が組めなくなる」と難色を示したことから、厚労省は昨年11月に休息時間を「9時間」とする修正案を出した。経営側に加え、今年に入りバスの労組代表も受け入れる考えを示したことから、このまま決まる公算が大きい。
 修正案では、往復の通勤で2時間かかる人の場合、食事・入浴で計3時近く使うと、睡眠は4時間程度しかとれない。運転手の過労死事件を多く手掛ける川人博弁護士は「運輸業界の労災認定は全業種中で最多で運転手の過労は深刻。運転手の体調不良などで悲惨な交通事故が増えており、厚労省は安易な妥協を避けるべきだ」と批判する。
 委員会に参加していない労組幹部も「睡眠不足は解消できず安全な運転ができない」(自交総連)と主張する。
 運輸業界で過労による脳や心臓疾患で労災認定された人は2020年度で58人(うち死亡は19人)と各業界中、最も多く、コロナ禍でも高止まりが顕著。運転手のくも膜下出血などで起きた事故も増加傾向にあり19年度は327件で、巻き込まれた乗客や通行人も含め23人が死傷。事故件数は5年間で約5割増えている。

 運輸業界の過労対策 運輸業界には残業時間上限規制など働き方改革関連法が特例で2024年4月まで5年間適用が猶予される一方、国会付帯決議で追加対策を講じることになっている。休息時間の見直しはこの一環で、厚労省はバス、タクシーについては3月末までに決定、引き続きトラック業界についてもルールを定め、合わせて24年4月から実施する


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