「織」の人間国宝・北村武資さんと「染」の人間国宝・森口邦彦さんが奇跡のコラボ 銀座の呉服店がつないだ縁 合作着物お披露目

2022年2月18日 06時32分

二大巨匠展で展示される合作「雪景」の説明をする「銀座もとじ」の泉二弘明社長(左)と長男の啓太専務=中央区で

 2人の人間国宝による通常ならあり得ないコラボレーションが実現した。染織界で名をはせる「織」の北村武資(たけし)さん(86)と「染」の森口邦彦さん(81)が合作した着物が19日から、中央区の呉服店「銀座もとじ」で展示される。清らかで、気品あふれるたたずまいの逸品。巨匠らが込めた思いとは−
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 重要無形文化財保持者(人間国宝)はそれぞれ手技が際だっており、合作はもちろん、作品が同時に展示されることもあまりないとされる。例えるなら、霜降り牛ステーキに、マグロの大トロを載せるようなものだからだ。

森口邦彦さん(銀座もとじ提供)

 きっかけは、もとじの泉二弘明(もとじこうめい)社長(72)が口にした「夢」だった。二〇一九年、北村、森口両氏と三人で食事していた時、二人から次の夢を問われ、「お二人の二人展をさせていただくことです」と明かした。
 北村さんは一九九五年に古代中国を起源とする織物の技法「羅(ら)」で、二〇〇〇年に「経錦(たてにしき)」でそれぞれ人間国宝に認定された伝統工芸の最高峰の一人。森口さんは花や雪を幾何学文様で表現するなど斬新な作品を次々と発表し、〇七年に人間国宝になった。
 共に京都市を拠点とする二人は、もともと認め合ってきた関係にある。

北村武資さん(銀座もとじ提供)

 北村さんは若い頃、友禅染職人で人間国宝だった森口さんの父、華弘(かこう)さんが主宰する染織研究会に参加していた。森口さんはフランスでグラフィックデザインを学んだ後、父の仕事を継承するか迷っていた時に北村さんが織った帯に出合い、「この構造美は何だ」と衝撃を受け、道を決めた。
 「そういえば一緒にやったことなかったなあ」。二人は泉二社長の提案を受け止めた。作品を一緒に展示するだけではおもしろくないと、北村さんが「私が織ったものに森口さんが染めてはどうか」と打診。森口さんも応諾した。
 「互いの作品に手を入れてなどと、とても私から口にできない。お二人が言ってくれたから実現した」。全国初の男性専門着物店を銀座に出すなど、呉服業界の挑戦者とも呼ばれる泉二社長も恐縮して振り返る。
 それから一年半以上。北村さんが「経錦」で織り上げた生地に森口さんが友禅で染め上げた訪問着が完成した。タイトルは「雪景(せっけい)」。海外でデザインを学んだ泉二社長の長男で、同社専務の啓太さん(37)が解説する。
 「平面なのに立体的に見える北村先生の織に、森口先生らしいポップなひし形デザイン。着た時にいろいろな線がつながり、光の加減で見え方も変わる。互いに主張しすぎず、相手の技量を引き出し、静けさがあるのに見ていると、だんだん強さと個性が出てくる」

「雪景」の生地

 奇跡のような合作。北村さんは「私は(日ごろ)古典に基づく制作だが、森口先生は現代風の表現。新しい一面を見ていただけるのでは」と説く。森口さんは「北村先生の織物を扱うのだから緊張した。多くの方は想像もしなかった作品。そんなことできるのと思ってもらえたら」と笑った。
 泉二社長は「新型コロナで世間が暗くなっている時に、きれいな物を見て元気になってほしいと巨匠の先生方が新たな世界に挑戦した。美術館のガラス越しにしか見られないような作品。ぜひ手に取って見てほしい」と呼び掛けた。合作の他に二人の作品も計百十数点展示される。

◆あすから二大巨匠展◆

 「二大巨匠展 競演する織と染−北村武資と森口邦彦」は19〜27日、中央区銀座4の8の12、「銀座もとじ」で。午前11時〜午後7時。入場無料。26、27日午後3時から森口さんの作品解説があり、要予約。問い合わせは銀座もとじ=電03(3538)7878=へ。
 文・井上靖史/写真・中西祥子
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