裸足で自由に奏でる スペイン、中南米のクラシック音楽に精通 下山静香さん(ピアニスト)

2022年2月19日 13時01分
 靴はおろか靴下もはかずに演奏することから、「裸足(はだし)のピアニスト」の異名を持つ下山静香さん。スペイン音楽のスペシャリストで、中南米のクラシックにも精通し、意欲的に作曲家や作品を紹介している。三月には、十年以上前から続けているピアノライブ「ラテンアメリカに魅せられて」が節目の第十回で最終回を迎える。
 スペインのアルベニス、グラナドス、ファリャ、モンポウ、メキシコのマヌエル・ポンセ、キューバのレクオーナ、アルゼンチンのヒナステラ、ピアソラ、ブラジルのヴィラ=ロボス…。いずれも音楽史に残る作曲家だが、日本での認知度は高いとは言えない。
 「スペインはこの二十年でかなり広まった。ラテンアメリカもようやく注目されてきたと思う」。なぜこの分野に取り組み始めたのか。行きつけだという書店ブックハウスカフェ(東京・神保町)で取材した。
 群馬県桐生市出身。声楽を専攻していた母に幼少時から厳しくピアノを鍛えられた。桐朋学園大で学び、一九九五年にリサイタルデビュー。ドビュッシーらフランス音楽を軸に、スペインの作品にも興味を持ち始める。転機は九八年の二回目のリサイタルだ。アルベニス晩年の傑作、組曲「イベリア」の中の「エル・アルバイシン」を弾いている最中、雷に打たれたように突然こう思った。
 「表現したいものがあるのに、音として伝えられていない…」
 評価を気にし、自らの周りに壁を作ったような演奏。ありのままをさらけ出せていないと痛感した。「壁を溶かしてしまい、本来の自分でいたい」。それができる場所として自然に浮かんだ地がスペインだった。
 すぐ準備を始め、翌九九年に文化庁の芸術家在外研修員に合格。知人はおらず、情報も乏しい時代、トランク一つでマドリードへ飛び、現地で住居や語学、音楽を学べる場所を探した。
 「一人で切り開いていく爽快感があった。心がオープンで、おせっかいなほど親切な人が多く、孤独も感じなかった」。バルセロナへ移り、世界的ピアニストのアリシア・デ・ラローチャに師事する縁にも恵まれた。四年間の滞在を通し、ストイックになりがちな日本での音楽活動で「特別なものにしすぎていた」演奏が、日常に当然にあるものだと気付いた。感じたままを表現できる生活が「自分を縛っていたものを剥ぎ取ってくれた」と振り返る。
 帰国後は、スペイン音楽をテーマにした公演のほか、ラジオやテレビ番組にも出演し、魅力をPR。スペイン語を公用語とする国が多い中南米へも対象を広げ、非常勤講師を務める母校・桐朋や東京大では歴史や文化的背景を踏まえた音楽研究の成果を教えている。CDアルバムは十枚を超えた。
 執筆活動も盛んで、音楽以外でも谷口ジローや吾妻ひでお、花輪和一らの漫画のスペイン語訳を手掛けるなど幅広く活躍する。
 スペイン音楽の魅力は「感情や生活が赤裸々に表現された人間らしさ」にあると説明。長年フラメンコに取り組むほどの踊り好きで、ダンサブルな作品が多いことも引かれた理由だ。
 中南米の場合は、先住民や黒人奴隷の要素も融合してさらに複雑という。「痛みの歴史が音楽にも表れていて、共感する。こうした感覚がブラジルの『サウダージ(郷愁)』という言葉ではないか」と分析する。
 中南米に詳しい音楽ジャーナリスト竹村淳(じゅん)さんと出会い、ピアノライブを始めたのは二〇〇八年。裸足での演奏を始めたのもこの頃だ。「リズム感覚がそれまでやってきた音楽と違い、地につながっている感じがほしかった。自由でありたいと」
 ピアノライブの最終回は、「タンゴの革命児」と呼ばれたピアソラのクラシック作品をフィーチャー。昨年の生誕百年に合わせて企画したが、コロナ禍で延期に。没後三十年の今年、くしくも彼の誕生日前日に開催することになった。ピアソラの来日時に聴いた「すごく芯の強い」演奏が印象深いといい、「タンゴだけじゃない、新たな一面を紹介したい」と意気込む。
 公演は三月十日午後七時から、東京オペラシティリサイタルホールで。 (清水祐樹)

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