存続に危機感 邦楽ファンを増やせ!

2022年2月20日 07時28分
 邦楽の未来が危ない。新たなファンの獲得が進んでいない。人気演者を除いて演奏会は空席も目立つ。内々で支えてきた伝統も厳しさが増す中、コラボレーションやネット配信などの試みで、ファン開拓の挑戦が続いている。 (敬称略、ライター・神野栄子)

◆クラシックと共演

The Trioの凱旋公演。左から山形由美、菅野潤、常磐津文字兵衛

 二〇二一年十二月。常磐津(ときわづ)節の三味線方、五代目常磐津文字兵衛(60)が、東京芸術大の同級生でフルート奏者の山形由美、ピアノ奏者で山形と同じ事務所の菅野(かんの)潤(65)と組むユニット「The(ザ) Trio(トリオ)」の公演を東京都内で開いた。
 菅野はパリ在住、文字兵衛も山形も海外経験が豊富。「欧州でデビューして日本に持ち帰ろう」とユニットを結成し、一九年にスペインやフランス、オーストリアで好評を博した。凱旋(がいせん)公演は二〇年五月に予定したが、コロナ禍で延期され、ようやく実現した。
 ピアノとフルートの二重奏などに続き、文字兵衛が「関取千両幟(せきとりせんりょうのぼり)」の演目で登場。三味線のダイナミックなバチさばきと力強い語りで関取の葛藤などを切々と表現して聴衆を引き込み、ラストの宮城道雄「春の海」は、ピアノ、フルートと三味線の音色が調和し、豊潤な調べで喝采を浴びた。
 現代は邦楽に触れる機会が少ない。比較的気軽に弾けるピアノやギターに対し和楽器は扱うのに手間がかかり、日本伝統文化振興財団の前理事長、藤本草(そう)(71)は「二十年前に中学校の音楽で和楽器体験が導入されたが、教えられる先生が少ないなどで興味を持つ子どもの育成につなげられなかった」ことを愛好者が伸びない一因に挙げる。
 三味線音楽の代表格の長唄や常磐津節、新内節、清元(きよもと)節をはじめ、箏や尺八などを含めて邦楽全般に家元制度がある。演奏会の宣伝はかねて邦楽仲間が中心。一般向けのPRが乏しかったつけも集客数に表れているという。
 公演でクラシック音楽ファンへのアピールに手応えを感じたという文字兵衛。一方で、「これからの邦楽は、多くの耳目に触れる努力をしなければ縮小の一途をたどるだろう」と気を引き締める。

◆「カレーライスの唄」

「カレーライスの唄」で「長唄を広めたい」と語る杵屋佐喜

 「スタイルを守るだけでは停滞する。時代に合った新しい曲を作らないといけない」。邦楽に詳しい国立歴史民俗博物館名誉教授の小島美子(とみこ)(92)からそうした指摘がある中、七代目杵屋佐吉(きねやさきち)(三味線方)の次男で“長唄界のプリンス”唄方の杵屋佐喜(さき)(38)の「カレーライスの唄」が注目を集めている。
 ♪そもそもカレーの〜製法は…。カレーの作り方などを歌詞に織り込んだ唄は、聴いてすぐに理解できる現代の長唄をつくるプロジェクトから生まれた。全編アニメーションのミュージックビデオを二〇年四月に公開すると、「子どもにも初心者にも分かりやすい」との声が上がった。
 大学では声楽を学び、オペラ界などから誘いもあったというが、日本の音楽を見直し長唄に戻った。第二弾で「コロッケ」を予定。「入り口はとことん広く、そこから深い魅力に触れていただけたら」と長唄童謡の普及などにも努める。
 邦楽の未来への鍵は何か。邦楽専門誌「邦楽ジャーナル」編集長の田中隆文(66)は「現状の打開には『邦楽協会』を設立して、実演家や家元、和楽器業界、メディアなども入って同じ方向を向いて話し合うことだと思う」と話している。

◆「ナウシカ」の歌舞伎音楽など 新内多賀太夫

 各流派とも多くの耳目を集めるよう活動の幅を広げている。江戸浄瑠璃の一流派で、遊里の女性の心情を哀切込めて語る新内節の気鋭、新内多賀太夫(39)もその一人だ。
 新内節冨士元派四世宗家、新内仲三郎(人間国宝)の長男。女性の心の機微のこまやかな表現に定評がある。十九歳で祝儀曲を作曲するなど早くから頭角を現し、一七年に七代目家元に。江戸浄瑠璃を幅広く研究し、遊里を流して新内節を聴かせた「新内流し」をイベントで再現する一方、新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」(一九年)では作曲などを担当。しの笛や胡弓(こきゅう)なども駆使して歌舞伎音楽に新風を吹き込み、昨年は朗読と新内節の舞台を成功させた。
 「伝承と伝統は違う。伝統は時代や環境によって進化していくもので今が大事。これから邦楽に携わる者は古典の伝承と、今の社会になじむものの両方をやらないといけない」。邦楽の将来を見据えてそう語る。

◆公演案内

 The Trioの公演は27日午後2時、千葉県流山市のスターツおおたかの森ホール。チケットセンター=(電)04・7186・7638。長唄「カレーライスの唄」などはYouTube「杵屋佐喜チャンネル」で公開中。新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」のDVDなどは、Amazon、楽天などのサイトで。

◆ここが魅力 神野栄子

 邦楽の演奏会は唄方、三味線方、囃子(はやし)方が整然と並び、よほどの仕掛けがない限り形は変わらない。ただ同じ三味線音楽で歌舞伎とともに発展した長唄、常磐津節、清元節でも、それぞれに特徴がある。
 魅力を私流に言えば、歌唱に重きを置く「唄もの」の長唄では、名曲「船弁慶」の静と動のドラマチックな転換に心が躍る。常磐津は芝居がかった語りが魅力。清元はゆるやかな三味線の音に乗せ、しんみりと物語を聴かせる。遊里の流しから発展した新内節は、女性の心情を真っすぐに吐露する数少ない邦楽。若い女性が聴けば生き方が変わるかもしれない。

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