[じぃとばぁの公園デビュー] 三重県亀山市 植田依子(59)

2022年2月20日 07時44分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修
[見られている] 静岡県御前崎市・パート・66歳 増田悦子

 見られている。
 気配を感じたその時、カシャと音がした。振り向くとスマホ越しに覗(のぞ)いている影が見えた。撮られた。
 慌ててその場から離れ、近くの茂みに飛び込んだ。
 生い茂った葉の陰に隠れて移動すれば見つからずに逃げられそうだ。
 耳を澄まし、動きだす機会をうかがう。ところが、「すぐ、調べて」と声が聞こえた。
 しまった。誰かに写真を送ったようだ。何が起きるんだ?
 ドキドキした。悪いことはしていない。心のままに食べて眠って歌うこの生活は、誰にも迷惑はかけていない。
 しばらくして、着信音が鳴った。
 「へぇ、この鳥がモズかあ。今、木の陰に隠れてる。かわいいよ。動画撮って送るね」
 なあんだ。じゃあ、ちょこっと顔出してやるか。

<評> スパイ小説を思わせるスリリングな書き出しですが、読み進んで、なるほど! 今どきの自然観察は、スマホを片手に素早く情報収集、画像拡散。撮られる方だって“映え”を意識してしまいます。

[停電] 金沢市・無職・74歳 能村孝

 ボクが子どもの頃、夜分よく停電になった。
 電気が消えると、母は常備しているローソクを取り出して火をともす。
 次に電球をはずして耳の近くで振ってみる。カサカサと音がすると電球が切れているのだ。
 ボクは外に出て近所の家や街灯を見てくる。暗かったら、初めて停電だと判断する。
 ローソクの頼りない光の中で、母と姉とボクの三人は普段とは違う楽しさみたいなものに包まれる。
 朝、目覚めるとローソクは消えている。
 ボクが大人になったら、いま母がしてくれていることを全部ボクが取り仕切ろうと心に誓ったものだ。
 しかし、ボクが大人になった頃、停電はめったに起きなくなっていたし、電球は長持ちする蛍光灯タイプやLEDに変わっていた。

<評> 若い世代にとっては、やや想像しづらい昭和の風景かもしれません。電力事情が不安定だった戦後の一時期、予告無しに訪れる闇夜にともされるローソクのありがたさが、しみじみ思い出されます。


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