広がる個人間の精子提供、手軽さの裏にリスク 連絡断つ女性も「何人生まれたか分からない」…

2022年2月21日 06時00分
<生殖医療と出自を知る権利>㊥

◆顔や体格、出身大学名まで…100人以上に提供も

ツイッターで「精子提供」で検索すると、多くの関連アカウントが表示される=一部画像処理

 「神奈川、東京を中心に精子ボランティアを行っています」「170cm、60kg、二重まぶた」
 会員制交流サイト(SNS)には「精子提供」「精子ドナー」などと冠したアカウントがあふれ、ツイッターだけで数百件ある。顔や体格など身体的特徴のほか、出身大学名を記す人が少なくない。精子提供は大半が無償で、交通費程度の支払いで済むことが多い。
 30代前半で2児の父の西園寺優さん(仮名)は10年来活動するドナーだ。ウェブサイトやSNSで呼び掛け、これまでに約500人と面会し、100人以上に精子を提供した。シリンジ(注射筒)を使うか、性交渉をするか、依頼者の女性に選んでもらう。
 依頼者は40代以上が中心で、性的マイノリティーのカップルや、1人で産み育てる考えの独身女性も多いという。不妊治療としてのAID(第三者の提供精子を使う人工授精)は結婚していないと受けられない。そのため、条件不問の個人同士の取引が使われる構図だ。海外で提供を受けたり、精子バンクを利用したりするより、負担は格段に小さい。

◆感染症の有無など情報非開示多く 経歴詐称でトラブルも

医療関係者の協力を得て民間精子バンクを開設した岡田弘・独協医科大特任教授

 だが、手軽さはリスクを伴う。男性不妊に長年取り組む独協医科大学の岡田弘特任教授らが、精子提供をうたうサイトやツイッター140件を分析したところ、連絡先や感染症検査の結果、家族の遺伝子疾患などの情報を開示し、安全で信頼できると判定できたものは、わずか5件だった。
 「1人が数十人に精子を提供することもある。(子どもの近親婚のリスクなど)あってはならないことだ」と岡田氏は強調する。ほかにも、精子を提供した男性が経歴を偽り、トラブルになるケースも。提供者が国籍や学歴などを偽ったとして、損害賠償を求めて東京地裁に提訴した女性は、提供者にとっては性交渉が目的だったと訴えている。
 西園寺さんは「出自を知る権利」の観点から、生まれた子が成人後に希望するなら会う考えだ。だが、連絡を絶つ女性もいて、実際に何人の子が生まれたか、「正確に把握できない」と明かす。困っている人の要望がある限り提供を続ける予定だが、「倫理的に問題のあるドナーは多い。本来は個人間取引は禁止し、法規制の下で医療機関が行うべきだと思う」と話す。

◆「立場の弱い子どもをこれ以上生み出してはいけない」

医療関係者らが提供した精子が凍結保存されている=埼玉県越谷市のみらい生命研究所で

 生殖補助医療を医療者の手に取り戻す―。現状に危機感を募らせた岡田特任教授は昨年、民間の精子バンク「みらい生命研究所」(埼玉県越谷市)を設立した。現在、医療関係者ら10人の精子を凍結保存し、日本産科婦人科学会の登録施設に1件15万円で提供を始める。
 提供者にはあらかじめ、自分の情報をどこまで開示するかを3段階から選んでもらった。最も多かったのは意外にも、身元を含めた情報の全面開示だった。「出自を知る権利」についての認識が広がり、提供する側の意識も変わりつつある。「立場の弱い子どもをこれ以上生み出してはいけない」と岡田特任教授は語る。

日本での精子や卵子提供 法律上の規制はなく、日本産科婦人科学会の会告が実質的なガイドラインになっている。第三者の提供精子を使う人工授精(AID)の対象を「法的に婚姻している夫婦」に限り、▽提供者は匿名▽凍結保存した精子を使用▽同一提供者からの出生児は10人以内ーなどと規定する。12の病院やクリニックを認定している。厚生労働省の通達に基づき、提供卵子による妊娠、出産や、第三者の子宮に受精卵を移植する代理懐胎は認めない。

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 生殖技術が進展する中、生まれる子が遺伝上の親を知る権利は今も保障されていない。3回の連載を通じて、置き去りにされてきた子ども自身の権利について考える。(小嶋麻友美)

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