人生の最終盤に藤井聡太五冠からパワー 要介護2でも将棋教室に通い続けた81歳女性逝く

2022年2月22日 18時00分

イベントで女流棋士・山口仁子梨(にこり)さん㊧の指導対局を受ける森さち子さん㊨=昨年3月、愛知県一宮市で(家族提供)

 将棋の藤井聡太五冠の活躍に触発され、人生の最晩年を将棋で彩った女性がいる。名古屋市の森さち子さん(81)。要介護2ながら熱心に教室に通っていたが、1月に亡くなった。家族は藤井五冠に、深く感謝している。(岡村淳司)

◆将棋と無縁が一転、のめり込み

 森さんは名古屋で小さな居酒屋を切り盛りし、還暦を迎えた後はヨガのインストラクターに。5年ほど前、腰を痛めて要介護認定を受け、隠居の身となった時に〝聡太フィーバー〟が起きた。デビュー間もない藤井五冠が、公式戦29連勝を成し遂げたのだ。

森さち子さんの遺品の将棋入門書。熱心な勉強をうかがわせる書き込みがある

 無縁だった将棋に興味を持った森さん。昨春には東海地方のプロとアマでつくる任意団体「日本将棋連盟東海普及連合会」に相談し、名古屋・栄の将棋教室に通い始めた。すぐにのめり込み、月に数回、4時間の個別レッスンも受けるほどに。指導した近藤哲生さん(85)は「藤井五冠のニュースを見て『強くなりたい』とよく言っていた。年配だから覚えは早くなかったけれど、とにかく熱心でした」と振り返る。

◆「120歳生きたくらい濃い人生」

 不自由な体にめげず、タクシーで教室やイベントに通った。藤井五冠の師匠の杉本昌隆八段(53)に指導してもらった時は、うれしそうに家族に報告した。しかし昨秋に体調を崩し、数週間入院。一人息子の昇一さん(55)が「体に悪いから将棋をやめて」と諭すと、口論になったという。「昔から負けず嫌いで行動的。初心者同然なのにプロから教わるなんて、あきれちゃうんですけど…」。母子家庭で育てられた昇一さんは、母をしみじみ思い返す。
 自立心の強い森さんは、同居の誘いを断って一人暮らしをしていたが、1月5日、マンションの自室で倒れているのが見つかった。宅配の弁当を受け取った直後で、原因不明の突然死だった。居室には、将棋の本や近藤さんに返信しようとしていた年賀状。車いすを引き取りに来た介護用品レンタル業者の青年は、「『いつか一緒に指しましょう』と言われていました」と話し、森さんから借りた将棋入門書を、昇一さんに返してくれたという。
 昇一さんは「家に引きこもるしかなかった母を、将棋が外に連れ出してくれた。120歳生きたくらい濃い人生だったと思う」と感謝する。森さんを導いた藤井五冠は竜王、王位、叡王、棋聖に加え、5つ目のタイトルの王将を手にした。森さん自身はその快挙を見られなかったが、「きっと喜んでいるはずだ」と昇一さん。さらなる高みを目指す藤井五冠に、「今後も全冠制覇に向けて頑張ってください。天国の母と一緒に応援しています」とエールを送る。

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