なぜプーチン氏は破滅的な決断を下したのか ウクライナ侵攻の背景にある「帝国」の歴史観

2022年2月25日 06時00分
ロシアのプーチン大統領(AP)

ロシアのプーチン大統領(AP)

 ロシアのプーチン政権がウクライナ侵攻に踏み切った。欧米や日本のロシア専門家や外交関係者の間では全面的な軍事侵攻には否定的見方が有力だった。公然たる「侵略国」となり国際的信用は失墜、巨大な制裁を招くことで疲弊している経済に大打撃となるからだ。合理的な判断を超えて破滅的ともみえる決断を下したプーチン大統領は、「帝国復活」の執念にとらわれているようだ。(元モスクワ支局長 常盤伸)
 「ウクライナは真の国家として安定した伝統がない」。プーチン氏は22日に行った演説の半分以上を割き、ロシア革命から現在に至るウクライナの歩みを延々と批判、国家の正統性そのものに疑問を呈した。
 7月に発表した論文では「ウクライナとロシアは一つの民族」との持論を展開。「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能だ」と結論づけ、ウクライナの主権を事実上否定した。
 こうした妄想というべき考えの根底にあるのは、ロシアは欧米とは異なる文明を有する偉大な「帝国」であるべきだとするプーチン氏の偏った歴史観と信念だ。
 ロシアが欧州からアジアにまたがる真の「帝国」となったのは、18世紀後半にエカテリーナ女帝がウクライナを併合して以降とされる。ウクライナに執着するプーチン氏の念頭には、このウクライナ国家を消滅させて「小ロシア」として組み込み、同化させた歴史があるとみられる。
 こうした考えが台頭する背景にはプーチン体制の権力構造の変化も影響している。政権内では2012年の民主化運動の大弾圧以降、対欧米協調を志向するやや穏健な勢力が影響力を失い、プーチン氏の盟友のパトルシェフ安全保障会議書記ら、旧KGB(ソ連国家保安委員会)出身の「チェキスト」と総称される強硬派が完全に主導権を握った。
 チェキストの思考の根底にあるのは、現在の国際秩序の基本となっている欧米を中心とするリベラルな価値観こそが、ロシアの精神的な基盤を破壊するという危機感で、その裏返しとしての攻撃性だ。欧米のリベラルな民主主義に対して「ロシアの伝統的、精神的価値観」の優位性をことあるごとに主張するイデオロギーは、昨年全面改訂されたロシアで最も重要な戦略文書「安全保障戦略」にも明記された。
 「帝国復活」の願望を具体的に支えるのが強大な軍事力だ。プーチン氏は、ソ連崩壊で疲弊したロシア軍の改革と近代化に取り組み、国力では遠く及ばないが、米国に次ぐ世界有数の軍事大国の地位を回復した。核戦力の強化に努め、極超音速ミサイルなど最新兵器では米国を凌駕りょうがする。
 米国が国内の分断などで指導力が低下した今こそ武力で国際秩序を変更する好機到来とプーチン氏はみなしたのだろう。しかし「自国民保護」や、捏造ねつぞうされた情報を口実に他国を侵略する行動様式は、ナチス・ドイツのヒトラーに酷似する。軍事的冒険主義が行き着く先は破滅だと歴史が証明している。

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