<カジュアル美術館>第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神 アンリ・ルソー 東京国立近代美術館蔵

2022年2月27日 07時18分

1905〜06年 油彩・キャンバス 175×118センチ 

 一度見たら、忘れられない絵だ。
 水色の空がどこまでも広がる。春の風が吹いてきそうだ。羽を生やし、ラッパを手にした「自由の女神」が宙に浮かんでいる。なぜか毛髪と衣の裾は逆方向にたなびき、体も妙に曲がっている…のだが、そんなことは、絵の魅力の前にどうでもよくなってしまう。
 これはアンリ・ルソー(一八四四〜一九一〇年)の代表作のひとつ。「ラッパの音が聞こえてきそうでしょう。さわやかで開放感にあふれています」と東京国立近代美術館の都築千重子主任研究員は語る。ルソーは貧しい職人の家に生まれ、税関の番人として長く働いた。絵を本格的に始めたのは四十代。「これは自信をつけ始めた晩年の作です」
 画面の下半分に目を移すと、これまた不思議な味わいがある。万国旗の下には、葉の一枚一枚を描いた木立。さらに目をこらすと、黒服の人々が展覧会場に絵を運び込む様子が見て取れる。中央にはライオンの姿。その下の文字を読むと、ピサロら名だたる画家とルソーの名が列記され、「彼らがあなたのライバルですよ」と自信満々に呼び掛けている。右手前には、主催者と握手するルソーがちゃっかり描かれる。
 アンデパンダン展とは、参加費を払えば誰でも参加できる革新的な展覧会。サロンと呼ばれる官展の排他性に対抗して一八八四年にパリで始まり、新たな才能を輩出した。この自由な発表の場がなければ、独学のルソーが世に出ることはなかった。本作からは展覧会への敬意が伝わってくる。

《フットボールをする人々》1908年 グッゲンハイム美術館所蔵

 四十代から死ぬまでほぼ毎年出品したルソーだが、絵の前では必ず人々が爆笑した。作品は全て、遠近法はどこへやら、無理なポーズもなんのその。たとえば《フットボールをする人々》はサッカーなのかラグビーなのか、盆踊りめいた姿がたまらない。評論家に「子どもの殴り描きのようだ」と酷評されても、ルソーは全く意に介さなかった。
 早くから特異な才能に気付いていたのは、生前から交流のあった詩人アポリネールや画家ピカソら、新進の芸術家たち。意外にも、ルソーは「伝統的な写実画」を目指していたという。彼の感受性のフィルターを通すと、世界はこう見えたのだ。「絵全体を通して迫ってくる、彼の欲求の深さ、激しさが私たちを動かす」(岡谷公二著「アンリ・ルソー 楽園の謎」)。恋多き画家は、六十六歳で死ぬ直前まで不毛な片思いに身を焦がした。ただひたむきに、大まじめに生きた。
◆みる 「第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神」は東京都千代田区北の丸公園3の1、東京国立近代美術館の所蔵作品展「MOMATコレクション」で3月18日から5月8日まで展示。開館は午前10時〜午後5時(金曜・土曜は午後8時まで)。月曜休み(祝日は開館、翌日休館)。来館は日時指定予約がおすすめ。所蔵作品展は一般500円、大学生250円。高校生以下と18歳未満、65歳以上は無料。
文・出田阿生
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