<新かぶき彩時記>「ぢいさんばあさん」 夫婦の変わらぬ絆描く

2022年3月4日 07時20分
 「ぢいさんばあさん」は、仲睦(なかむつ)まじい若夫婦に降り掛かった三十七年間の別離と、老年期の再会を描いた新作歌舞伎です。
 森鴎外の小説を宇野信夫が劇化し、一九五一(昭和二十六)年に東西の歌舞伎座で初演されました。主人公の武士・伊織(いおり)と妻・るんは、さまざまなコンビで演じられてきました。
 不祥事を起こしたるんの弟の代役で、京へ一年間の単身赴任を命じられた伊織。短慮から赴任地で朋輩(ほうばい)を斬ってしまった伊織は、越前に長期お預けの身に。おしどり夫婦ぶりを見せる冒頭の伊織の屋敷、事件が起こる京の料亭、元の屋敷での再会というわずか三幕で、人生の思わぬ変転と、変わらぬ夫婦の絆を見せる構成です。
 演出にも注目。まずは各幕に登場する桜。冒頭の屋敷の庭には桜の若木が。続く料亭の場面では、るんが伊織への手紙に入れた屋敷の桜の花びらが、別居中の夫婦の思いを象徴。最後は許されて元の屋敷に戻った年老いた伊織と、彼を迎えたるんが、大木に育った桜をともに愛(め)でます。歳月の流れを桜が見事に表現しています。
 鴎外の原作には登場しない甥(おい)夫婦も効果的。二人の再会を世話しますが、かつての若々しい伊織たちを見るようです。そして冒頭で伊織が見せるある癖が、再会した白髪頭の伊織をるんが夫と気づくきっかけとなるのも心憎い伏線です。 (イラストレーター・辻和子)

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