通称使用、留学で実感した海外との常識のズレ…国内でも「使えない穴」あちこちに

2022年3月11日 06時00分
<通称使用の限界~選択的夫婦別姓を求めて㊦>

「旧姓の通称使用拡大では、名前の問題は解決できない」と訴える羽賀美樹さん=東京都葛飾区で

 「名前を取り戻し、晴れ晴れした気持ち」。東京都内に住む羽賀美樹さん(32)は昨年12月、法律婚を望む会社員の夫(35)といったん離婚後、夫の姓から自分の生来の姓にそろえ直して婚姻届を出した。「夫が私の姓になってうれしいとは全く思わない。別姓が選べるようになったら、夫は旧姓に戻すでしょう」

◆使い分けのトラブル、自己責任で切り抜けるしかない

 羽賀さんは5年前の結婚時、夫と何度も話し合ったが、妻が夫の姓を名乗る日本の慣習に従って改姓した。だが、2017年に始まった性暴力に抗議する「#Me Too運動」を受け、それまで知らなかった「ジェンダー」という言葉が、自分の違和感の根源と気づいた。ジェンダーについて深く学びたいと20年、開発コンサルタントの仕事を辞め、英国の大学院に1年留学することを決めた。
 当時、仕事などでは旧姓を使っていたため、手続きは煩雑だった。ビザの申請は戸籍名でしかできないが、学位は旧姓でほしい。大学院の出願書類は旧姓で記入したが、旧姓の通称使用という日本独特の慣習は理解してもらえるのか…。心配になり、推薦状を書いてくれた人に戸籍姓と旧姓の2通りを用意してもらうなど手間をかけた。
 パスポートには旧姓を併記できるが、ICチップには反映されない。旧姓併記のパスポートを不審に思われ、入国時に長時間取り調べられたという人の話を聞き、旧姓使用について説明する国の資料がないか外務省に問い合わせた。
 「対応していない」。担当者のすげない返事にがっくりした思いを会員制交流サイト(SNS)に書き込むと、当時の外相、河野太郎衆院議員から「対応を指示しました」と返信が来た。「びっくりしたし、うれしかった」。同省ホームページに掲載された英文の説明文を手に無事入国した。
 だが、現地では名前が原因で手続き上のトラブルに次々と直面。昨年に帰国後、アプリで発行する海外用の新型コロナワクチン接種証明書は、旧姓が併記されないことも報道で知った。「国は通称使用を拡大するというが、個人の自己責任で切り抜けるしかない状況は変わらない」

◆負担を引き受けるのは女性 男性の理解進まず

 電機メーカーで働く大阪市の奥西由貴さん(32)は昨年6月、研究職の夫(33)と離婚届を出すだけの「ペーパー離婚」をした。奥西さんは生来の姓に戻り、夫とは事実婚に。「どちらかが相手に改姓させる悪役になるのを避けたかった」
 奥西さんは16年に結婚後、職場では旧姓を使い続けたが、旧姓が通用しない場面に遭遇した。例えば、会社の健康診断。戸籍名で呼ばれて行くと、旧姓の名札を見た担当者に「お呼びしているのは別の人です」と強い口調で言われた。「取り違え防止とはいえ、しゃくし定規の対応に閉口した」。夫と話し合いを重ね、戸籍名を生来の姓に戻すことに決めた。
 旧姓使用で問題は解決できるとの意見もあるが、企業法務の弁護士が多く所属する日本組織内弁護士協会(東京)の榊原美紀理事長によると、健康保険や税金関係は戸籍名しか使えない。連動するシステムも戸籍名だけのことが多く、「旧姓使用を進めれば進めるほど、旧姓が使えない穴があちこちから見つかる。穴埋め対応に追われ、かえって非効率」と指摘する。
 結婚改姓に伴う問題は、育児休業などと同様、負担を引き受ける側がほぼ女性のため、男性の理解があまり進んでいない。榊原さんは「企業に課されている『女性活躍推進』『働き方改革』と地続きの問題。まずは企業の女性管理職を増やし、経済界からも政府に選択的夫婦別姓の導入を訴える必要がある」と話す。(砂本紅年)

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