<東日本大震災11年 あの日>落語で、伝え続ける 岩手県出身・桂枝太郎 実話から新作「ユキヤナギ」

2022年3月11日 07時34分
 東日本大震災から十一日で丸十一年。あの日の実話から一つの新作落語が作られていた。タイトルは「ユキヤナギ」。作者は、岩手県衣川村(現奥州市)出身の落語家桂枝太郎(44)だ。「当たり前の日々は簡単になくなる。震災の記憶を風化させてはいけない」。重い話を笑える落語ネタにして寄席で語り続ける枝太郎の思いを、ダイジェスト版とともに紹介する。 (ライター・神野栄子)
 「おまえたち、掃除をしなさい。今日からおばあちゃんが来るんだ。十年ぶり? いや十一年ぶりだぁ」
 「ピンポ〜ン」「来た来た! 遠いところすまなかったねぇ。上がってよ!」「久すぶりだンね、あんだも元気そうで」「お母さま、ご無沙汰しております」「ユミコさぁん! あんだも久すぶりだね。これ、岩手県のみやげだ。『かもめの玉子』。食(け)ぇ」
 「マユミ、お茶ぐらい出せよ」「うぃーす! ばあちゃん、お茶」「バ〜カ。こういう時は『粗末なお茶でございます、緑茶をどうぞ』って言うんだよ」「粗末なお茶でございます、緑茶をどうぞ」「お茶菓子も出せよ!」「粗末なお茶菓子でございます。『かもめの玉子』をどうぞ」
 「わだすが持ってきたンだけんども。ケンイチ、おばあちゃんだよ。忘れぢゃったンだべが?」「ばあちゃん、お願いがあるんだけど」「膝まくらでもすてほすいが?」「会わなかった分のお年玉たまってるよね。今すぐ全部ちょうだい!」「二人どもあんだの子だ。よく似てっぺ」「すみませんね、甘やかして育てちゃって。陸前高田はどう? 何か変わった?」
 「きれいになったよぉ。掃除すて、花植えっぺって。ユキヤナギがきれいに咲いでっぺ。一本松って知ってっちゃ?」「あぁ、津波で流されたんだけど、一本だけ松が残ってたって」「今じゃ防腐処理もすてな、モニュメントどして立ってる。待ち合わせ場所なんかでも使われでっぺ」
 「だろうね。松(待つ)っていうくらいだから…」「…ツッコミが必要だべが? 町のみんなはな、親しみを込めで『松ちゃん、松ちゃん』って呼んでんだ」「ワイルドだろ〜」「それはスギちゃんだ!」
 「あの日…大っきな地震きた…津波きた…昔から『津波てんでんこ』って言葉があってな、津波がきたら誰かれかまわず逃げろって。自分の命だけ大切にすろって。でもなぁ…母親が柱につかまって…子どもの手を離せずに二人とも流されでった…ンな光景、いっぺぇ見できた…」「子どもの手は離せないよ。なぁ母さん」「父さんの手ならすぐ離しちゃうけど! むしろ蹴飛ばしちゃう」「おい!」
 「おら、捜すたんだ、おめぇだづのごと。でも見つかんねくてなぁ…やっと見つけだ、一週間後。安置所で、ろう人形のように固まってよ…情げねくてなぁ。『何、ババァ一人で生ぎ残ってんだ』って、首くぐって死のうとしたンだ。でも、もう少しすれば寿命で死んづまう。だったら、被災地がどれだけ復興すたがを目に焼き付けて、おめぇだづに話してやるんだって、みっともねぐ生ぎできた」「知ってたよ。おばあちゃんはさ、闘ってたんでしょ。風化させないように」
 「皆、変わったよ。町の人だづの意識も、チャラチャラすてだ若者も。人の嫌がるごどを進んでするようになった」「俺だって前からやってたよ。満員電車の中で屁(へ)をしたり」「そういうことじゃねえんだ! 名物も盛んだ。牡蠣(かき)の養殖がうめんだ」「高いんじゃないの? 牡蠣(火気)現金(厳禁)って言うから」「いいかげんにすろ!」
 「こっちは意外と快適だよ。会社だってあるし。学校だってある。おじいちゃんはね、老人ホームに行ってる。そっちの方が気楽だって。すごいんだぜ、松方弘樹、田村正和、田中邦衛に、歌舞伎は団十郎、三津五郎、勘三郎、吉右衛門、寄席だって三遊亭円丈、柳家小三治、笑福亭仁鶴、桂歌丸もいるんだよ! あっちの世界も大変だったでしょう。コロナだっけ? でも、人間そんなに弱くないよ。絶対に復興する! 今日から一緒に暮らすんだ、じしん(自信)はあるの?」「いや、じしん(地震)はもうこりごりだぁ」
<かつら・えだたろう> 1977年生まれ。桂歌丸に入門し、2000年二つ目、09年真打ち。乃木坂46への落語指導、世界初のVR落語会出演など多彩に活動。
 枝太郎の公演詳細 https://www.edatarou.com/ 

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