「請戸はどこに行っちゃったの」 空き地に慰霊施設、元に戻らない古里 福島県浪江町請戸地区
2022年3月12日 06時00分
津波と原発事故は一つの集落を跡形もなく消し去った。11日、福島県浪江町の海沿いにある請戸 地区では、見渡す限りの空き地の中に慰霊施設が完成した。かつての住民は元通りに戻ることはない古里の姿に、割り切れない思いを抱く。(小野沢健太)
◆津波で墓石流出
「これでやっと、あんたも安心して眠れるな」。請戸に住んでいた佐々木繁子さん(71)=福島県いわき市=は高さ5メートルの丘に向かい、震災前に病気で亡くなった夫康之さんを思って手を合わせた。
この日完成した慰霊施設「先人の丘」は、海岸から約600メートルの場所にある。津波で全ての墓石が流出した請戸共同墓地跡に造られた。丘の下には、流された後に集められた墓石など約400基が埋まっている。
原発事故の避難指示は2017年3月末に解除されたが、災害危険区域に指定され今後も人は住めない。
「原発事故後は倒れた墓石が野ざらしで、人が入れないから片付けることもできず、先人たちに申し訳なかった」と、悔やむ佐々木さんは、真新しい丘を囲む空き地を見回した。「ここは住宅密集地で近所同士が助け合って暮らしていた。そんな請戸はどこ行っちゃたの」。自宅跡も土置き場になっていた。「私もそろそろ落ち着く場所を探さないといけないのかな」。あきらめざるを得ない現実が目の前に広がっていた。
◆風化が進まないように
丘から南へ約500メートル、震災遺構の町立請戸小校舎がある。骨組みだけになった教室間の壁などが、あの日の津波の威力を物語る。教師を目指す大学生明日海斗さん(20)=横浜市=は「想像以上で圧倒された。風化が進まないよう、今日体感したことを震災や原発事故を知らない世代の人たちに伝えたい」と話した。
請戸地区は津波で127人が死亡。原発事故で救助が阻まれ、27人が行方不明のままだ。海岸では警察や消防の捜索隊約50人が一列に並び、熊手を手に砂の中を確かめていた。
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