生誕120年 金田一耕助生みの親・横溝正史 語り尽くす 台東区 聖地・黒猫亭で「金曜 毎月第一」に集う

2022年3月15日 07時06分

横溝正史談議に花を咲かせる林正樹さん(左)や黒猫亭店主の宇都木由美さん(右)ら=いずれも台東区で

 今年は推理作家の横溝正史(よこみぞせいし)(一九〇二〜八一年)の生誕百二十年。「名探偵・金田一耕助(きんだいちこうすけ)」の生みの親で、多くの作品が映画にドラマにと、繰り返し制作されてきた。ファンの熱い思いと人気の秘密に迫る。

カフェ&バー西浅草黒猫亭

 台東区のカフェ&バー「西浅草黒猫亭」。知る人ぞ知る、横溝ファンの聖地だ。昭和モダンの雰囲気が漂う店内に、緑や赤のステンドグラスが怪しい光を放つ。百冊以上の横溝作品が書棚に並び、店名の由来である「黒猫亭事件」の初刊本もある。

店内には犬神佐清のフィギュアと「黒猫亭事件」の初刊本

 生誕百二十年を控えた昨年十二月から、毎月第一金曜をファンが集う日にした。金田一耕助にちなんで「金第一」。三月のこの日は十数席が満席で、「語り尽くしたい」という熱気に包まれた。
 人気の源は金田一の魅力だろう。役者兼会社員の林正樹さん(44)は毎回、羽織袴(はおりはかま)に下駄(げた)という衣装で来店する。「金田一はアウトロー。小説の舞台は戦後なのに、時代遅れの書生風の姿を貫いた。外見は名探偵に見えず、生活能力もゼロだが、周囲に愛される。あこがれの存在です」
 横溝は約八十作に金田一を描いた。戦後の混乱期の東京や、古い因習が残る農村を舞台に連続殺人が発生。登場人物の複雑な血縁関係を背景に、伝説や俳句、手毬(てまり)唄や楽器などが効果的に使われる。
 謎解きの過程で、登場人物の内面も浮かび上がる。戦争の犠牲になったり、身勝手な男に虐げられた人々の悲しみ。親子の深い情愛や、男女の慈しみ合い…。
 店主の宇都木由美さんは「グロテスクと思われがちだが、飄々(ひょうひょう)とした探偵のおかげで暗くなりすぎず、人間味にあふれている」。
 金田一というキャラクターが登場したのは、終戦翌年の四六年のことだ。戦時中、横溝は軍の検閲や出版社の自主規制で思うような小説が書けなかったが、昭和天皇の終戦のラジオ放送を聞きながら、「さあ、これからだ!」と心の中で叫んだと、後年記している。
 ファンの同人誌を自費出版する「神保町横溝倶楽部(くらぶ)」の西口明弘代表(54)は「本格的な推理小説、斬新なトリックを書こうという思いが、金田一作品に凝縮している。映画やドラマになるたびに、制作者の解釈も加わって生まれ変わる」。
 メモリアルイヤーに合わせ、絶版作品の復刻が相次ぎ、海外では翻訳も進む。広大無辺な「横溝ワールド」は、これからもファンを引き付けてやまない。

◆映画で金田一耕助役 俳優・石坂浩二さん 作品の底流に戦争批判

 横溝さんは当初、僕のことを「金田一耕助のイメージと違うのでは」と思ったそうです。1作目の映画「犬神家の一族」のロケでぼやがあり、僕が羽織袴の衣装のまま、はだしで駆けて見に行った。すると、現場にいた横溝さんから「おっちょこちょいで、イメージ通りだ」と褒められました。
 横溝作品の底流には、戦争と家族があります。戦争のドロドロした膿(うみ)が、怨念となってある家族を襲う。作品には、戦争批判が込められているんです。
 そうした怨念や事件の謎を解明しても、金田一は犯人を警察に引き渡したりしません。映画では「犯人はあなたですね」と自ら告げに行き、犯人の自殺さえ見逃してあげる。探偵というより、物語のまとめ役のようです。
 映画の市川崑(こん)監督からは「金田一は神の使いだ」「天使だ」と言われました。事件を見届けに来た存在であり、犯人に対しても愛情深い。そこが、人々の共感を呼ぶのかもしれません。
 文・臼井康兆/写真・平野皓士朗、中西祥子
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