荒れた家そのまま「戻れる状態じゃない」 福島・双葉町からの避難男性 帰還困難区域、まだ除染もされず

2022年3月16日 17時00分
 東京電力福島第一原発がある福島県双葉町には、事故から11年たっても放射能汚染が放置された場所が多く残る。千代田信一さん(80)=千葉市中央区=の自宅も除染されずに動物に荒らされ、帰還が見通せない。「国や東電は『帰りますか』ではなく、『元通り住めるようにしたから、帰ってください』と言うのが筋だ」と憤る。(保母哲)

荒れたままの自宅へ戻った千代田信一さん=2日、福島県双葉町で

 玄関口やアルミサッシの一部はイノシシが穴を開け、室内は家具や調度類、布団が散乱していた。ニワトリやチャボの小屋は朽ち、ヤギ小屋には避難できなかったヤギの骨が残る。築約200年、風雨を耐えてきたかやぶき屋根だった家は千代田さん自らが改修した。
 「この家に戻りたいけど、戻れる状態じゃない」。千代田さんは2日、原発から約9キロの帰還困難区域内にある自宅に町の許可を得て入った。白い防護服姿で線量計を身に着けての帰宅に、記者が同行した。
 荒れた家と敷地を見て回り、「悔しい」と繰り返した千代田さん。近くの墓では、避難先で亡くなった妻や先祖に手を合わせた。
 2011年3月11日、自宅前の畑にいた千代田さんは強い揺れで立っていられず、座り込み両手で草を握ってしのいだ。液状化の影響で田んぼから水が噴き上がり、ビビッという音とともに地割れも起きた。
 双葉町は全町民が避難した。千代田さんは家族と車で北西約50キロの福島県川俣町へ。その後、妻の実家がある千葉県四街道市に身を寄せ、約8年前に千葉市へ移った。病気が見つかった妻は千葉への転居後間もなく亡くなった。今は息子夫婦と孫の5人で暮らす。
 大半が帰還困難区域のままの町は、JR双葉駅一帯が「特定復興再生拠点区域(復興拠点)」として除染が先行する。復興拠点では施設整備が進み、6月以降に避難指示が解除され、人が住めるようになる。
 復興拠点の外に、千代田さんの家はある。政府は昨年8月、拠点外の帰還困難区域について、帰還を望む住民の自宅など生活拠点を除染し、29年までに避難指示を解除する方針を決めた。これまでの全域除染後の解除とは異なり、除染自体が限定的となる。
 町が昨夏実施した住民意向調査では、町に「戻りたいと考えている」は11.3%。「戻らないと決めている」は60.5%で、働き盛りの30~49歳は約7割に上る。
 千代田さんは「若い人は避難先に落ち着きつつある。高齢者ばかりが戻るとしたら、双葉の将来はどうなるのか」と声を落とした。

 福島県双葉町 南隣の大熊町とまたがるように東京電力福島第一原発が立地する。全住民が避難中で、避難者数は県内が3980人、県外が2719人(2月末時点)。町役場の機能は現在、福島県いわき市に置かれ、今年8月に双葉町内の仮設庁舎で業務を開始する予定。


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