コロナ禍のしわ寄せは刑務所にも ワクチン接種率は6割に満たず

2022年3月17日 17時00分
 計約4万5千人が収容されている全国の刑務所や拘置所などの刑事施設で、新型コロナウイルスのワクチンを1回以上接種した人が、1月末時点で約2万6200人にとどまることが分かった。施設は短期間の出入りもあり単純な比較はできないが、約8割が接種した国内全体に比べて停滞。法務省も遅れを認め、「速やかに接種が行われるよう対応したい」としている。 (奥村圭吾)

刑務所などの感染状況をまとめた法務省矯正局の資料

 法務省はこれまで被収容者のコロナ関連の死亡事例やワクチン接種の進捗しんちょくを公表していない。本紙は、同省の資料を入手。コロナ関連の死者数は2月末までに計7人に上ることも分かった。
 刑事施設は全国75カ所で、昨年の平均収容者数は約4万5700人。1月末までの接種者数を割った接種率は約57%となる。一方、国内の接種率は4日時点で約80%だった。
 接種は自治体が発行した接種券を持つ希望者に対し、外部医療機関による巡回や施設内の診療所で行っている。接種が遅れる理由には、刑事施設に住民票を移していない被収容者が接種券を取り寄せるのに時間がかかったり、刑務所へのワクチン配布を後回しにする自治体があることなどがある。
 被収容者の感染は2020年11人、昨年423人で、今年は1~2月だけで565人と急増。うち、重症などで外部の医療機関に入院した人は2月末までに計18人だった。
 被収容者のワクチン接種について、同省は「一般社会の接種率には達していないという認識はある。自治体と調整の上、速やかに接種が行われるように適切に対応していきたい」としている。
 新型コロナの第6波で、刑務所などの刑事施設でも2月、過去最多の感染者数を記録。感染防止策に加えて職員が自宅待機などになる影響で、受刑者らの生活にしわ寄せが及んでいる。

◆入浴や食事に制限 「世界に劣る日本の人権感覚」

 「あかだらけの身体、汚れっぱなしの衣服」「連日、新規感染者が出て先が見通せない」。府中刑務所(東京都府中市)の70代の男性受刑者が2月15日付で書いた支援者宛ての手紙では、便箋3枚に細かい文字で刑務所内の様子が記されていた。
 手紙によると、1月中旬以降、職員らに感染が広がり、2月上旬には職員と被収容者あわせて延べ100人を突破。週2回の入浴はなくなり、食事も菓子パンなどに変わった。

全国の受刑者から支援団体に届いた手紙。刑務所内の新型コロナの感染状況などを伝えている

 収容規則は、週2回以上の入浴を定める一方、感染症のまん延時は「行わせない」としている。法務省関係者や受刑者らの支援団体によると、入浴の代わりに房の中でおけの水を使ってタオルで体を拭かせたり、ウエットティッシュを配ったりしているという。
 感染者や濃厚接触者が出て食事を作る「炊場すいじょう」が閉鎖されると、弁当が手配されるまでの間、乾パンや缶詰などで対応。洗濯の工場が止まり、何日も同じ下着を着たままの受刑者もいる。職員不足で検閲も滞り「手紙や差し入れの発着が遅れたり、新聞の回覧が中止になった施設もある」(支援団体)。
 関東地方の刑事施設の職員は「収容者の不満が高まり、暴動に発展しないか危ぶまれる事態。積極的に音楽や映画を流すなど工夫している」と明かす。
 各国の監獄法に詳しい五十嵐二葉弁護士は「日本の刑事施設の処遇や人権感覚は諸外国に劣っており、そのつけが非常事態に被収容者に跳ね返る。逃げられない塀の中で、コロナの恐怖にさらされている受刑者らも同じ国民という意識で感染対策や処遇改善を進めてほしい」と話す。

関連キーワード


おすすめ情報