「銀河鉄道」に励まされた! 東村山→都心 無料通勤バスにエール続々

2020年5月25日 11時22分

手に消毒スプレーをかけてから乗ってもらう無料通勤バス=東京都東村山市で

 新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が発令される中、東京都東村山市から都心まで無料の通勤バスが走っている。平日の朝、「密」になりがちな電車に乗らずに出勤してもらおうと、地元のバス会社「銀河鉄道」が運行。どこからも補助を受けず、燃料代も自腹のバスをなぜ走らせるのか。乗ってみて考えた。 (稲垣太郎)

◆「密」避けたくて

 まだ肌寒い午前五時四十分、西武線東村山駅の東口に大型バスが止まった。前夜までに予約した利用者が一人、二人と近寄ってくる。社員が通勤定期や社員証を見せてもらい、両手に消毒スプレーをかけてから車内に案内した。
 この日の利用者は十六人。車内は四列、四十九席で、マスクを着け、二人席に一人ずつ座る。「こちら特報部」の席の周囲は、通路を挟んで男性が一人と、前後に一人ずつ。人との距離が開いていて安心感がある。
 午前六時、出発。信号で止まるだけで道路はすいており、渋滞はほとんどない。利用者は眠ったりスマホを見たり、新聞を広げたり。グループはおらず、車内は静かだ。
 後方にいた電話オペレーターの女性(56)は、個人情報を扱うためテレワークできず、出勤せざるを得ないという。「電車の方が早いけど、安心して出社できるので、ほぼ毎日使わせてもらっている」。IT企業に所属するエンジニアの男性(39)も派遣先の企業まで行かなくてはならず、在宅勤務はできないという。「電車は感染が怖い。このバスには感謝しかない」

◆やりがいある

 経由地の新宿駅西口で七人ほどが下車。運転士の辻明さん(66)に「ありがとうございました」とお礼を言っていく。七時四十分、終点の東京駅丸の内口に予定より二十分早く到着。「観光バスでもお礼を言われるが、より感謝されている気がする。地元に恩返しできて、やりがいがあります」と辻さんは話した。

山本宏昭社長

 運行する銀河鉄道の山本宏昭社長(56)は無類のバス好きだ。実家の酒店の前に路線バスのバス停があり、物心ついたころから見ていた。運転士になることを夢見るようになり、大学卒業後は家業を手伝いながら中古のバスを買うほどに。一九九九年に「銀河鉄道」を設立した。
 現在、社員は約五十人。観光バスの収益で路線バスの赤字を補う形で自転車操業してきたが、その観光バスの予約がコロナですべてキャンセルになった。「心臓が止まった状態。やれることをやり尽くそう」。山本さんはそう思い、観光バスを使って役に立ちたいと考えた。

◆怖さなくなるまで

 路線バスとして申請したら認められるまで時間がかかり、今困っている人たちを救えない。国土交通省と相談した上、三月十二日から新宿駅経由東京駅行きと、新宿駅行きの二便で始めた。山本さん自身も大型連休前まではハンドルを握った。現在は東京駅行きだけに減らしたが、今月二十日までに延べ六百七十三人を運んだ。
 燃料代は路線バスの日々の売り上げで補うが、路線バスも苦しい。売り上げが前年同月比で50%以上減った中堅・中小企業に最大二百万円を支払う持続化給付金に申し込んだが、入金時期は不明。業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給される雇用調整助成金も「計算が煩雑で必要な書類も多い。申請するだけで大変」と妻の優子専務(56)は頭を抱える。
 それでも、取り組みを知った人たちからは「励まされた」「陰ながら応援します」などと書かれた手紙やメール、寄付が百通以上寄せられているという。山本さんは「無料通勤バスをやらなかったら、会社の危機を乗り越えられたというわけじゃない。感染の恐怖がなくなるまで続けたい」と意欲を語っている。

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