「デコちゃんが行く」 袴田巌さんを支える姉・秀子さんの生涯が漫画に

2020年5月24日 20時31分

袴田厳さんの姉秀子さんの漫画「デコちゃんが行く」

 一九六六年に静岡県で一家四人が殺害された強盗殺人事件で死刑が確定し、第二次再審請求中の元プロボクサー袴田巌さん(84)を支え続ける姉の秀子さん(87)の生涯を描いた漫画「デコちゃんが行く 袴田ひで子物語」が出版された。戦中を生き抜き、弟の無罪を信じて幾多の苦難にもへこたれない姿は周りの人たちを勇気づけている。(片山夏子)

◆支援者が自費出版

 漫画は浜松市に住む袴田さん姉弟の日常を支える「袴田さん支援クラブ」の猪野待子代表=同市=が自費出版。猪野さんが監修し、静岡市の漫画家たたらなおきさんが作画した。猪野さんは「どんな困難が襲ってきてもへこたれず、なにくそと前進する気丈な人。事件に巻き込まれた家族の暗さとは懸け離れ、会う人が皆元気をもらって帰って行く。閉塞感のある現代で生きるのに疲れてしまった人たちに届けたいと思った」と話す。
 漫画は、「デコちゃん」こと秀子さんの生涯を描く。六人兄弟の五番目で巌さんが六番目。遠州弁で何でもやってやろうを意味する「やらまいか精神」が旺盛な姉御肌で、素直でおとなしい巌さんの面倒をよくみた。だが、秀子さんが三十三歳のとき、巌さんが逮捕され、人生が激変した。

袴田秀子さん

 一貫して弟の無罪を信じてきたが、世間の目は冷たく、眠れずに酒に頼った日々も。支援者に支えられ立ち直った後も、最高裁で死刑が確定し、巌さんの面会拒否が続いたり、拘禁反応が悪化したりなど試練が。秀子さんは「自分にも生きる希望が必要だ」と感じ、六十一歳のとき、巌さんと同居するためのマンションを建てた。その願いがかなったのは二十年後だ。

◆「漫画の第2部も」

 秀子さんは「こちら特報部」の取材に「過去を振り返ってもどうにもならんこと。くよくよしないの。巌は四十八年間も刑務所の中で苦労した。私の苦労なんてどうってことない」と笑う。気付いたら五十年以上闘っていたが、「無罪になるまで、命ある限り闘い続ける。百歳まで生きるから漫画の第二部も作ってほしい」と話す。
 巌さんは二〇一四年三月に釈放されたが、今も拘禁反応が続き、毎日、何時間も街中を歩く。見守り隊として同行する浜松市の清水一人さん(71)は「秀子さんは巌さんを一切否定せずに包み込み、自由にさせている。それはすごいこと」と言う。見守り隊の磐田市の自営業女性(49)は「秀子さんに笑顔じゃない時期があったなんて想像できない。会った人はその人柄にひかれまた会いたくなる」。小学三年の時に事件に興味を持って以来、支援に関わる東京都狛江市の高校一年畑山智哉さん(15)は「漫画を読み、改めて秀子さんの信念を感じた」と話した。

◆くじけぬ姿勢若い世代に

 袴田事件弁護団事務局長の小川秀世弁護士(67)は、弁護団が秀子さんに激励されてきたと説明する。「支援活動は秀子さんのけん引力があってこそ。周りが秀子さんに勇気づけられている。くじけない秀子さんの姿勢が、漫画を通じて若い世代にも伝わったら」
 ジャーナリストの大谷昭宏氏は取材で何度も秀子さんに会い、元気をもらったと語る。「長年権力に痛めつけられてきたのに、打ちひしがれるどころか、それをはね返して余りある力がある」。一四年、拘置停止の決定を出した静岡地裁で裁判長は「捏造された疑いのある証拠で死刑の恐怖の下、拘束されてきた」とし「これ以上拘置を続けることは耐え難いほど正義に反する」と司法を批判した。「これほど猛省を促された司法なのに決定からすでに六年。姉弟は高齢。一日も早く無罪判決を出すべきだ。漫画で秀子さんの元気をもらうと同時に、世論をもう一度高めなくては」
 漫画はA5判、千三百六十四円(税別)。全国の書店で扱っている。

関連キーワード

PR情報

社会の最新ニュース

記事一覧