<カジュアル美術館>春芳(しゅんぽう) 上村松園(うえむらしょうえん) 山種美術館

2022年3月20日 07時14分

1940年 絹本・彩色 71.5×86.8センチ

 香り立つような梅の花に、すっと目をやる清楚(せいそ)な女性。耳たぶは寒さで少し赤らみ、左手は着物のたもとに隠して口元へ。たたずまい、しぐさ、視線…。「美しい」、としか言いようがない。
 京都で生まれ育った上村松園(一八七五〜一九四九年)は、「東の鏑木清方(かぶらききよかた)」と並ぶ近代日本画における美人画の名手。明治から昭和にかけ、格調高い女性像を描き続け、四八年には女性として初めて文化勲章を受章した。
 幼い頃から絵が好きで画家を志すが、女性の活躍が今以上に厳しかった時代だ。支えてくれたのは、早くに夫を亡くしながら、葉茶屋を営み続けた母だった。画学校で学んだほか、鈴木松年(しょうねん)や幸野楳嶺(こうのばいれい)、竹内栖鳳(せいほう)ら京都画壇を代表する画家に師事。十五歳の時には内国勧業博覧会で一等褒状を受賞し、作品は英国王族に買い上げられた。華々しく注目を浴びる一方、激しいねたみも。嫌がらせにも屈せずに理想の絵を目指し、筆一本で母や姉、未婚で産んだ息子の松篁(しょうこう)を養うまでになった。
 「女性は美しければよい、という気持ちで描いたことは一度もない」「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香(かおり)高い珠玉のような絵こそ私の念願とするところのものである」
 こうした言葉を残した通り、外形だけでなく内面の美も伝えるような清潔感ある作品は女性からの評価が高い。
 顔立ちの柔らかな雰囲気、髪の毛の生え際の美しさなどを生み出したのは、繊細で丹念な筆遣い。浮世絵など江戸時代の人物画を模写して女性像を学ぶ一方、写生を通して実在の姿として描こうともした。構図や装束も古画を研究し、時代に忠実に再現した。
 「春芳」は江戸時代中期の上層階級の女性とみられ、丁寧に描写された鹿(か)の子絞りの着物に当時流行した小六縞(じま)の帯、髪は後ろに突き出させたかもめ髱(づと)に結っている。よく見ると、白い半襟に描かれた、陰影を交えた花の模様の実在感が印象に残る。

「庭の雪」 1948年 絹本・彩色 54.0×66.0センチ 山種美術館蔵

 絵の周りを飾る表装にも強くこだわり、裂地(きれじ)を自ら選んでいたともいわれる。同作では一文字と風帯(ふうたい)に華やかな紫色の染め、金や色とりどりの糸による刺繍(ししゅう)でかたどられた扇面の裂が使われ、雅(みやび)やかな雰囲気にぴったりだ。
 「実際に絵を飾る時のことを考え、調和を意識したのでしょう。展示を実際に見て、松園の繊細な美意識を表装も含めた作品全体から感じ取ってほしい」と山種美術館学芸員の南雲有紀栄さん。
 緻密な筆触は晩年まで健在。「庭の雪」は亡くなる前年の作品だが、上方の町娘の瑞々(みずみず)しさが巧みに表現されていて、とりわけ人気が高い。
 山種美術館の創立者山崎種二さんと親交し、上京時にもてなしを受けていたが、きっかけは山崎さんの妻ふうさんが松園の作品を気に入ったこと。女性に支持され、女性を描いた女性だった。
 ◆みる 山種美術館(東京都渋谷区)は、JR、東京メトロ日比谷線恵比寿駅から徒歩10分。問い合わせはハローダイヤル=電050(5541)8600=へ。「春芳」と「庭の雪」は4月17日までの開館55周年記念特別展「上村松園・松篁−美人画と花鳥画の世界−」で展示中。開館時間は午前10時〜午後5時(入館は4時半まで)。月曜(21日は開館)、22日休館。入館料は一般1300円、大学・高校生500円(春の学割)、中学生以下無料。
 文・清水祐樹
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