ウクライナ侵攻で対照的な「情報戦」 ロシアは虚偽情報拡散、米欧は機密情報公開で優位に

2022年3月21日 06時00分
 ロシア軍のウクライナ侵攻をめぐり、関係各国の「情報戦」も熾烈になっている。虚偽の情報拡散で優位に立とうとするロシアに対し、米国やウクライナ側は機密情報の積極開示で対抗。守勢に回るロシアだが、ウクライナと米欧間の「間隙かんげき」を利用して反撃に出ているとの指摘もある。(ワシントン・吉田通夫)

◆クリミア侵攻時の教訓

米議会で証言するバーンズCIA長官=AP

 「ロシアによる偽情報に基づく軍事作戦を防ぐため機密を解除して情報を開示する取り組みが非常に重要だと確信している」。米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は10日の議会上院公聴会で、機密を解除してでもロシアの「うそ」を暴く必要性を強調した。
 ロシアは2014年のウクライナ南部クリミア半島侵攻時、偽装工作や情報操作で侵攻を正当化したとされる。この手口を教訓にバイデン米政権は今回の侵攻前、政府横断の特命班「タイガー・チーム」を設置。これまで機密情報として伏せられていた段階の情報も積極的に公表することで、ロシアの情報操作などを糾弾してきた。
 サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やブリンケン国務長官らは侵攻前から「攻撃はウクライナ全土へのミサイル発射や空爆で始まる」と具体的に発表。ロシアは直前まで否定していたが、事前の情報通りに侵攻を開始。ロシアの軍事行動は防げなかったものの、ロシア発の情報の疑わしさを世界に印象づけ情報戦で優位に立った。

◆疑わしきロシアの主張

米ニューヨークで11日、国連安保理の緊急会合に出席して「資料」を掲げ演説するロシアのネベンジャ国連大使=AP

 結果的にロシア側の主張は大多数の国から疑われている。11日の国連安全保障理事会でネベンジャ国連大使は「米国とウクライナが生物・化学兵器を開発している」と根拠も示さずに主張したが、国連の中満泉なかみついずみ事務次長は「国連は把握していない」と完全に否定。侵攻理由の一つにした「ウクライナで大量虐殺が行われている」との発言についても、国際司法裁判所(ICJ)が16日に「証拠がない」と一蹴した。
 民間企業も監視の目を光らせている。ツイッターなど大手会員制交流サイト(SNS)はファクトチェックを強化。メタ(旧フェイスブック)とユーチューブは16日、ウクライナのゼレンスキー大統領が国民に投降を呼び掛ける動画を偽造と断定して削除した。
 ロシア国内でも反戦活動が広がる中、プーチン政権は報道規制を強化し、SNSを遮断。積極的な情報発信で国内外から支持を集めるゼレンスキー氏とは対照的に、情報戦は劣勢に立たされている。

◆NATOの対応巡り「付け入る隙」

 挽回を狙うロシア側は、北大西洋条約機構(NATO)をめぐるウクライナと米欧との立場の違いを利用しようとしているようだ。

20日、首都キエフから国民向けに動画メッセージを出すゼレンスキー大統領=ウクライナ大統領府提供、AP

 ロシア軍の空爆などによる民間人の死者急増を受けウクライナは、NATOに防空システムや戦闘機の供給を要請。しかし、NATOはロシアとの直接的な軍事衝突を避けるとの理由から応じていない。ゼレンスキー氏は不満をあらわにしており、ロシア側は「付けいる隙」と捉えている。
 米ノースウエスタン大のエリク・ニスベット准教授(コミュニケーション論)は、ロシア側がSNSなどで「『NATOは助けてくれない』『ウクライナにはロシア側に付くほか選択肢がない』との情報を拡散し始めた」と指摘。「米欧は守ってくれないというウクライナ人の憤りを利用する可能性がある」と語った。

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