<泉麻人の気まぐれ電鉄 東京近郊>(8)正しきローカル鉄道 江ノ電・裏名所探訪

2022年3月21日 07時02分
 泉麻人さんが、なかむらるみさんと電車で東京近郊をぶらつく散歩エッセー。その8回目です。

◆新宿→鎌倉:JR湘南新宿ライン・横須賀線 和田塚→腰越:江ノ島電鉄 湘南江の島→西鎌倉:湘南モノレール

 東京近郊のローカル鉄道に乗りまわるこの連載として、やはり江ノ電には乗っておきたい。まずは湘南新宿ラインのグリーン券を入手して眺めの良い2階席を確保、新宿から沿線風景を楽しみながら鎌倉へ。乗車した列車は大船止まりだったので、横須賀線に乗り換えて、10時半ごろに鎌倉に到着した。

◆おなじみのロケ地

 JRの駅の西側に江ノ電(江ノ島電鉄)の乗り場はある。ここから素直に乗ってもいいのだが、一つ先の和田塚というローカル線らしい小駅から乗車。途中下車した極楽寺の周辺は、江ノ電沿線でもとりわけドラマや映画のロケ多用地として知られる。黒澤明監督の「天国と地獄」で駅手前のトンネルをくぐる江ノ電が出てくるし、テレビドラマでは僕の大学生時代にやっていた「俺たちの朝」という青春モノの舞台がここだった。
 1977年のドラマの放送時に「江ノ電開通75周年」と合わせて発売された記念乗車券を持っている。キップ本体を収容するカバーの表紙に主演の勝野洋が江ノ電脇の小道を歩くカットがある。背景に海と江ノ島らしき小山が見えるこの場所は、極楽寺の次の稲村ケ崎のちょっと先で江ノ電軌道が海際の国道脇に出くわすポイントではないだろうか。乗車券写真の撮影地とおぼしき場所で、ドラマの勝野洋の気分で歩いた=写真〔1〕。

〔1〕

 七里ケ浜の駅から乗った江ノ電は、現在最古の現役車両とされる305番を先頭にした3両編成だった。60年代初めの製造という305は床も木製で、いかにも江ノ電らしい。鎌倉高校前から腰越(こしごえ)へ向かっていくあたりは、まさに民家を擦(こす)るように走行する、沿線でもとりわけ狭隘(きょうあい)な区間。しかも切り通しの崖際に造られた腰越のホームは短くて、一番後ろの車両のドアは開かない。降車して少し先の国道134号沿いにある「池田丸」に向かった。窓の向こうに腰越漁港と相模湾が見える。屋号から察せられるとおり、漁師さんが営む魚料理の店だ。ここで僕はホウボウの煮魚定食(釜あげしらすも付く)と「あかもく」という地場の海藻(メカブに似ている)をいただいた。
 江の島大橋の方へと進んで、江ノ島の本島にちょっと立ち寄っていこう。島へ渡る人道橋は「弁天橋」と名づけられているが、そもそも江ノ島は弁天様(弁財天)の参詣に人が集まった場所なのだ。江ノ電という鉄道も参詣者の運搬を目的に明治35(1902)年に敷設(当初は藤沢・片瀬間。明治43年に鎌倉まで)されたのである。
 弁財天の江島神社の入り口に差し掛かる。境内の一角からは「エスカー」という山斜面を昇るエスカレーターが設置されているが、コレに乗って山頂近くまで行って、静閑とした奥津宮で参拝をした。眺望の良い崖際の道(富士山も見える)を下ってきたが、ここはトンビが多いようで<きけん! トビにたべものをとられます>なんていう警告板が所々に出ていた。
 橋の北詰から江ノ電の駅へ向かう商店通りを歩いていくと、江ノ電の駅の先に湘南モノレールの乗り場がある。ビルの5階に設置された湘南江の島駅からモノレールに乗車して、最後に鎌倉山に寄っていくことにしよう。

◆最後にモノレール

 大船まで行くこのモノレールに乗るのは初めて。低山に切り開かれた新興住宅地の傍らを懸垂式のモノレールが進んでいく。西鎌倉で降りて、モノレールに沿うように坂道を歩いていくと、鎌倉山の邸宅地の入り口に差し掛かる。鎌倉山バス停からすぐの「ティーサロン 鎌倉山倶楽部」に入り、バスク風チーズケーキとアールグレイティーなんぞを味わった。うん、このチーズケーキは絶品だ。
 店のすぐ前の街路の入り口に立つ「鎌倉山」と刻んだ石柱=写真〔2〕=に「菅原通済」の名が記されていたので、マダムにその件を尋ねたら「そうなんですよ。通済(つうさい)さんが昔、有料道路として開発した道路がココ」と教えてくれた。

〔2〕

 菅原通済とは、終戦後の「昭電疑獄事件」のフィクサーともされた実業家にして、小津安二郎の映画なんかにも役者として顔を出す怪人物。以前入手した「瓢たんなまづ」という随筆集に収められたエッセーによると、道路ばかりでなく鎌倉山の住宅地の開発自体、菅原氏が昭和初めに思いたったものらしい。さらに「大船、江ノ島だけの道路では不便なので、鎌倉の大仏にも支線を出すことにし、序(つい)でに鎌倉の乗合も買収し、遂には江ノ島電車までも買収してしまった」と随筆には大きなことが書かれている。
 帰りはすぐそばの停留所からバスで大船へ出たが、モノレールの下を走るこの道も菅原通済が開発したルートかもしれない。
<所要時間・運賃>新宿−鎌倉=約1時間・935円/和田塚−腰越=19分・260円/湘南江の島−西鎌倉=5分・180円
<いずみ・あさと> 1956年生まれ。コラムニスト。著書に「銀ぶら百年」「大東京のらりくらりバス遊覧」など
<なかむら・るみ> 1980年生まれ。イラストレーター。著書に「おじさん図鑑」「おじさん追跡日記」など
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