水木しげるさんアマビエの予言 病流行の時、私の写しを人々に見せよ

2020年5月21日 02時00分

水木しげるさんが描いたアマビエの原画(c)水木プロダクション

 疫病を鎮めるとされる半人半魚の妖怪「アマビエ」が人気だ。全国各地で関連グッズが次々と生まれ、厚生労働省も新型コロナの感染防止を呼びかけるキャラクターに採用した。そんな中、「ゲゲゲの鬼太郎」など妖怪漫画の第一人者で、妖怪研究家として知られた水木しげるさん(一九二二~二〇一五年)が三十五年以上前の昭和時代に描いたアマビエが脚光を浴びている。 (花井勝規)

◆「いいね」の大反響

 三月中旬、調布市の水木プロダクションが「現代の疫病が消えますように」と、水木さんが描いたアマビエのモノクロ版、カラー版の原画をツイッターに投稿。十二万件超のリツイート、二十四万八千件の「いいね」がつく大反響を呼んだ。
 これを見た調布市役所が水木プロに協力を依頼。市のホームページにオンライン会議の背景などに使える原画を公開したところ、担当者も驚きの五万八千件以上(二十日現在)のアクセスがあった。調布市は、水木さんが半世紀以上暮らしたゆかりの地で、名誉市民でもあった。

水木しげるさんは1984年以来、自身の著書でアマビエを紹介してきた

 水木プロによれば、この原画は水木さんが一九八四(昭和五十九)年発行「水木しげるの続・妖怪事典」(東京堂出版)のために描いた。渋いモノクロ版とキラキラ光るカラー版がある。その後も「日本妖怪大全」(講談社)「ゲゲゲ妖怪ずかん二」(小学館)などに収録され、テレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第五シリーズ(二〇〇七~〇九年)に鬼太郎の仲間として登場した。最近では小学館が、全学年向け雑誌「小学8年生」のホームページに、この原画を利用した塗り絵を掲載し、人気になっている。 

◆思い入れ強い?

 「水木は各地の伝承や民俗資料を集め、日本の妖怪だけでも九百体以上を描いてきた。アマビエはその中の一つではありますが、収録数からすると思い入れが強い妖怪だったのかもしれません」。水木さんの長女で水木プロダクション代表の原口尚子さん(57)はそう振り返る。

水木しげるさんの長女で水木プロダクション代表の原口尚子さん=調布市で

 水木さんがアマビエを描く際に参考にしたのは、京都大学付属図書館が所蔵する江戸時代後期の瓦版だった。
 弘化三(一八四六)年、肥後国(現在の熊本県)の海中に毎夜光る物が出現し、役人が現地に赴くと、アマビエが姿を現した。「当年より六カ年の間、諸国は豊作だが、病も流行する。その時には私の写しを早々人々に見せよ」。そんな予言を残して海中に入った-と瓦版は伝えている。

疫病退散の御利益があるとされる江戸時代の妖怪「アマビエ」の刷り物(京都大附属図書館所蔵)

 菱形(ひしがた)の目に、鳥のようなくちばし、長い髪、鱗(うろこ)がある半魚人風の体。水木さんの絵は、瓦版のアマビエの風貌にほぼ忠実だ。「続・妖怪事典」では、瓦版の内容に沿った解説に「海中からいきなり出てきて予言などというのはやはり神に近い妖怪なのであろう」とつづっている。歴史に埋もれていたアマビエを、すでに昭和時代、「予言」とともに広く伝えていたのである。

◆御朱印にも採用

 調布市内でも、藤の花で有名な国領神社がホームページからダウンロードできる御朱印にアマビエを採用し、話題に。妖怪漫画のふるさとは盛り上がっている。
 原口さんはアマビエブームを「一刻も早く新型コロナの終息を願う人々の切実な気持ちが伝わってくる。アマビエの出現が伝えられた江戸時代よりも科学技術ははるかに進んだかに見えますが、有効なワクチンができていない現状では、現代人は同じ立場に立たされている」と見る。
 「私の写しを早々人々に見せよ」と海中に消えたアマビエ。その言葉どおり、三十六年前に「写し」を描き、作品を通じて広めた水木さん。コロナ禍で作品が再び注目されている「現世」を、五年前に旅立った「黄泉(よみ)の国」でどんな思いで見ているのだろうか。

関連キーワード

PR情報

TOKYO発の最新ニュース

記事一覧