NFTアートの世界

2022年3月23日 07時53分
 「非代替性トークン(NFT)」と呼ばれるデジタル資産が注目されている。デジタルアートの世界の可能性を広げる新技術。一方で、投機的な高値取引には警戒感も出ている。NFTの行方は?

<非代替性トークン(NFT)> 「非代替性」とは、唯一無二であることを示す。例えば、ゴッホの油絵には唯一性がある。NFTは、デジタルアート作品の唯一性を技術的に担保する。「トークン」は、意味や価値を持つデータの集合。昨年3月、米国人アーティストの作品が競売にかけられ、6930万ドル(当時約75億円)で落札された。

◆表現追求、発信できる イラストレーター・BUSONさん

 二〇二一年八月ごろ、企業から働きかけがありNFTアートを作り始めました。もともと暗号資産の仕組みに魅力を感じ興味もありました。しかし、最初は全く売れませんでした。そこでまず気になったNFTを買い会員制交流サイト(SNS)で発信してみました。そうすると作家や収集家らとSNSでつながることができ、自分のNFTアートも話題となり、購入していただけるようになりました。
 デジタルのイラストは無断転載などされ価値が証明できませんでしたが、NFT技術によって唯一性を証明できるようになり、一点物として販売できることが一番の魅力です。また、普通の作品は売ってしまえば作家の元には何も残らないですが、NFTアートであれば転売されるごとにその価格の数%の手数料が作者に入ります。販売後に価値が上がっても、しっかり作家に還元されます。
 また、イラストレーターは依頼人の要望に応じたイラストを描くことが多いのですが、NFTアートでは自分の描きたい作品を価格設定し世界中の人に直接販売することができます。自分の表現を追求できるのです。
 現在はIP(知的財産権)ビジネスの会社を経営しながら、私の描いたキャラクターをNFTアートにし、それを購入した人が商用利用できるサービスを構想中です。NFTの仕組みを使えば、キャラのライセンスを手軽に売買できるようになると思います。作者とライセンスオーナーのつながりをNFTを活用してつくり、ビジネスモデル化できれば、キャラは作者の死後、百年先でも活躍できるのではないかと考えています。
 NFTアートは暗号資産で二十四時間売買でき、市場参加者のさまざまな思惑により価格が乱高下するため、投機的な側面もあります。半面、急騰が話題となることで、無名の作家が有名になり、作品自体の価値が高まることにつながる可能性もあります。急騰や暴落に一喜一憂せず、好きなNFTアートを納得の上で購入した方が後悔なく、楽しめると思いますし、そういうNFTプロジェクトの方が長く続くと思います。
 発展途上の分野で、作家を狙った詐欺もありますが、大企業も参入するなど可能性をすごく感じます。手探り状態ですが、キャラが長く愛される仕組みが完成できるよう地道に取り組んでいます。 (聞き手・杉野友輔)

<ぶそん> 長崎県生まれ。救急救命士として働く傍ら2016年からイラストをSNSで発信。独特な作風が人気となり、17年にイラストレーターとして独立。著書に『BUSONの職業あるある大図鑑』。

◆技術の社会化、重要に 千葉大教授・神里達博さん

 デジタルアート作品を一点物の美術品と同じように売買することはできないか。そう考えた人は、昔からいました。しかし、デジタルデータは簡単にコピーできるので、絵画のように「一つしかないもの」と保証するのは困難でした。
 そこに登場したのが、ブロックチェーンという技術です。最初の暗号資産(仮想通貨)であるビットコインに使われた技術で、NFTはその応用です。コピー防止の機能はありませんが、誰が本当の保有者なのかを保証することはできます。
 ブロックチェーンは、インターネット上で共有される台帳です。暗号資産の場合は、台帳にお金のやりとりを書き込みます。NFTでは、デジタル作品に関するデータや、売買履歴が記載されます。データの改ざんはできません。記帳は衆人環視の中、暗号化されて行われます。ごまかしは利きません。
 ブロックチェーンは、既存の技術の組み合わせです。しかし、コロンブスの卵のような画期的なアイデアです。この技術が持つ可能性を考えると、高額取引の話題ばかりが先行し、バブルのようになっている現状は、残念な気がします。
 NFTがデジタル作品の取引から始まったのは自然な流れです。ただ、私はむしろ、デジタルデータより現実の物をNFT化して、所有権を売買する方が未来があるし、面白いのではないかと思っています。
 例えば、銭湯にある壁画を考えてみます。価値があるから守りたいと思ったなら、NFT化して所有権を売り出してみてはどうでしょうか。海外の人も売買しやすく、転売もできます。十万人で共同所有するといったことも可能です。紙の文書では簡単にはできません。
 新しい技術が現れたとき、すぐに社会がそれを理解し、対応できるとは限りません。ブロックチェーンは注目されてはいますが、まだ社会的にこなれていないところがあります。だから暗号資産もNFTも、投機対象にとどまっているのです。
 重要なのは、技術を社会化することです。エジソンはそれをしました。彼は電球を発明したのではなく、改良した人です。電力会社や配電システムをつくり、技術と社会をつなぎました。ブロックチェーンの世界でも、そういう人や集団が出てくることを期待します。 (聞き手・越智俊至)

<かみさと・たつひろ> 1967年、神奈川県生まれ。科学技術庁、大阪大特任准教授などを経て現職。専門は科学史、科学技術社会論。著書に『ブロックチェーンという世界革命』『リスクの正体』など。

◆メタバースで可能性 弁護士・増田雅史さん

 最近話題のアートNFTについて、絵画のように所有できるものとして「デジタル所有権」という言葉を使う人がいます。私はこの言葉は、法的には正確な表現ではないと考えます。デジタルな情報は物体と異なり、法律上の所有権の対象とならないからです。実際の取引でも、物体としての作品がやりとりされることはまれ。ほとんどは、暗号資産にも使われるデジタルな取引台帳である「ブロックチェーン」上でデータをやりとりしているだけです。
 では、「NFTを買う」とはどういうことか。法律上の整理は不明確ですが、一つ言えることは、NFT購入者が創作物などの事実上のオーナーとしての地位を主張できることです。これは法律上のオーナーシップではありませんが、デジタルアートには所有権がない代わりに、NFTの保有者がオーナーであると考えよう、という理解の仕方が浸透しつつあります。
 もっとも、これはアーティスト自身がNFTを発行している場合に言えることです。アーティストの創作物を第三者が勝手にNFT化して販売するという詐欺的な事例が少なからず発生していますが、ブロックチェーンは技術的に取引記録を取り消せません。また、法的に代金の返還を求めようとしても、誰が販売者であるか分からないことが多く(そもそも日本国外の人物かもしれません)、訴訟はおろか、返還請求の通知をすること自体が難しくなります。
 こうした問題はあっても、NFTには大きな可能性があります。例えば、メタバース(インターネット上の三次元仮想空間)のサービスが一般に広がれば、絵画や音楽といった創作物のデジタルデータが、個数を限定した形で取引されメタバース内で利用されるようになり、コンテンツ産業の救世主となるかもしれません。
 NFTの法整備が必要という声がありますが、私は慎重です。特に法規制となると、事業者の創意工夫の余地を奪いかねず、新規産業の創出への悪影響が懸念されます。むしろ、既存法令の解釈適用の明確化や、税制を含む規制緩和が望まれます。事業環境の不透明性を除去するために、事業者側と政策立案側とのコミュニケーションの場としての官民協議会を作るといったアイデアも検討されるべきでしょう。 (聞き手・大谷津元)

<ますだ・まさふみ> 1981年、北海道生まれ。理系学生から転じて弁護士となり、大手法律事務所にてIT・デジタル分野を手掛ける。近著に『NFTの教科書』(共編著、朝日新聞出版)など。


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