<ふくしまの10年・マスター、もう少し聞かせて> (1)始まりは「夜の拠点」

2020年5月19日 02時00分

特別支局が入る福島民報社のビル=福島市で

 二年前の春、福島勤務を希望し特別支局に着任した。妻には「何で、いまさら…」と言われた。三十年以上この仕事をしてきて、どうしても福島の現状を自分の目で見たかった。単身赴任は東日本大震災時に勤務した宇都宮支局に続き二回目だ。
 JR福島駅西口にある福島民報社本社四階にある支局が「昼間の仕事場」だが、滞在時間は長くはない。ここに居ても、入ってくる情報といえば毎夕、東京電力からファクスで送られてくる福島第一原発の状況を記した日報くらいだからだ。
 釣りが趣味の前任者から渡されたメモには、元福島大学学長ら三人の電話番号と「そのうち、なんとかなるよ」と書いてあった。やはり自分の足で人探しをするしかない。
 どうしようかと考えた結果、同じフロアに入る時事通信社の支局長(60)に相談した。彼とは今から四半世紀以上前、水戸支局時代からのつきあいだ。まず、県幹部に引き合わせしてもらう一方、ユニークな客が集まる飲食店を数軒紹介してもらった。「夜の取材拠点」である。
 彼が教えてくれた店の一つが福島市の繁華街の外れにある「せら庵」というワインを出す居酒屋だ。夜はメニューがない。店に入ったら、食事か飲むかを告げる。ワインを飲むなら赤か白かを告げる。高級なワインはない。
 以後、通い続けることになるこの店で、客としてカウンターに居合わせた人たちから聞いた話が、取材のきっかけとなった。キーパーソンはマスター。決してネット検索ではヒットしない話が彼の口から時折こぼれてくる。 (長久保宏美が担当します)

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