暖かい家を当たり前に 高断熱のエコ賃貸、普及を目指す人たち 省エネで脱炭素に貢献

2022年3月26日 02時00分
 日本の家の断熱化が進まない。法整備も遅れる。壁や窓から熱や冷気が漏れないようにすれば、光熱費を抑え二酸化炭素(CO2)排出削減にもつながる。冬暖かければ健康にもいい。多くの人が良さを分かち合えるよう、元官僚や建築家が高断熱の民間賃貸普及に動いている。

◆樹脂サッシ、結露知らず

高断熱の部屋でくつろぐ親子

 2階のリビングは東南のベランダから日差しが注ぎ込んでいた。明るい部屋は、入居者の女性(34)のお気に入り。小学1年の長女(7)はミカンを頬張りつつ「落ち着くところが好き」とほほ笑んだ。
 東京都世田谷区に2014年に建った鉄骨造り2階建てメゾネットタイプの2LDKは、環境に配慮した「エコ賃貸」だ。元環境事務次官の東京大客員教授小林光さん(72)が経営する。官僚として地球温暖化対策を担当。退官後、断熱化が進まない状況を改善しようと取り組んだのがエコ賃貸だった。

小林光さんが経営するエコ賃貸住宅。植栽が多く、屋根には太陽光パネルが設置されている=東京都世田谷区で

 屋上の太陽光発電は災害時に井戸水のポンプも動かす。アラカシやテイカカズラなどの植物が建物を囲い、青紫色の羽が美しいムラサキシジミが姿を見せる。冷暖房の省エネになる壁などの断熱にお金をかけ青森県でも暖かい水準にした。
 家族は14年から入居。断熱の良さは「慣れちゃって」と実感しづらく、今年1、2月はエアコンをつけ続ける日もあった。ただ、その間の電気代は月1万円を大きく下回った。断熱性能の高い樹脂サッシの窓は結露知らずだ。

◆「電気、ガス代の見える化を」

 長女はぜんそくになったことがあり、住み替える場合も結露やかびの心配がない賃貸が希望。だが、性能の確かめ方には悩みそうで「きっと住んでみないと分からない」と苦笑いする。

エコ賃貸住宅を経営する小林光さん


 日本の住宅は無断熱や、昭和の時代にできた断熱性能の低い旧基準が6割を超す。高断熱の賃貸物件を探すのは至難の業だ。
 住宅選びに断熱の有無が意識されるようになれば、エコ賃貸が増える可能性がある。小林さんは「住んだときの電気やガス代の見える化があるといい」と指摘する。英国などでは、物件の標準的な光熱費を表示する仕組みがある。
 国は性能表示強化を目指すが、そのための建築物省エネ法改正案は審議日程の都合で国会に提出されていない。業界の動きも足踏みする。

◆木造賃貸こそ「健康的に過ごせるシェルターに」

 商慣習も課題だ。一昨年、一級建築士内山章さん(53)は横浜市鶴見区に断熱性能が高い木造賃貸アパートを建てた。高性能化の追加コストへの金融機関の理解がまだ乏しく「融資ではねられる時もある」と明かす。

断熱性能の高い木造賃貸アパートの前で笑顔を見せる内山章さん(左)と岩崎祐一郎さん=横浜市鶴見区獅子ケ谷で

 それでも、比較的安く住める木造賃貸こそ「当たり前に健康的に過ごせるシェルターであることが大事」とこだわった。かつてオーナーの希望でデザイン重視の家を建て、寒かった経験を持つ。健康への配慮を重視する転機となった。

断熱材で分厚くなった木造賃貸アパートの基礎=横浜市鶴見区獅子ケ谷で


 ほぼ全て汎用はんよう品の資材を使い、通常の建築に比べたコストの増加を1割に抑えた。オーナーで、地元の不動産会社専務の岩崎祐一郎さん(35)は総工費が高めでも賃料下落や空室率上昇を抑えやすいと見込む。
 断熱対策の遅れを挽回し、再生可能エネルギーと両輪で広がれば、脱炭素化への相乗効果が期待できる。「省エネは掛け算で効くんです」(小林さん)。人の暮らしをすこやかにしながら、社会を持続可能な姿に変えていく。賃貸の1室からも、そんな未来が始まっている。

建築物省エネ法 建築物の省エネ化を目指し、2015年に公布。一部の建築物の省エネ基準適合義務や、販売や賃貸時に事業者が省エネ性能を示す努力義務が定められている。21年には温室効果ガス排出実質ゼロに向けた政府の議論で、25年度の住宅の基準適合義務化や性能表示制度の強化の方針が固まったが、法改正案の国会提出は審議日程の都合で留保。対策の先送りが心配されている。

文・福岡範行、写真・沢田将人、木口慎子、福岡範行
 東京新聞では、より良い未来を模索する動きを取材しながら議論するチームをつくりました。国連のSDGs(持続可能な開発目標)を鍵にして、さまざまな課題を考えます。

◆今月の鍵

 今月の鍵は「目標3 すべての人に健康と福祉を」「目標13 気候変動に具体的な対策を」。住宅の断熱化で二つの目標を同時に達成していくことができます。法整備を進め、公営住宅改修などの動きに広がってほしいと思います。
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 「明日への扉」の題字は渋谷区の障害のある人とデザイン学生が制作した「シブヤフォント」を応用した書体です。「異彩のアート」も特集しました。

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