生き直す 免田栄という軌跡 高峰武著

2022年3月27日 07時00分

◆冤罪で奪われた 人間の復活
[評]小俣一平(早稲田大学大学院講師・元NHK司法キャップ)

 二十三歳で強盗殺人の容疑で逮捕され、死刑判決確定後、六度にわたる再審請求の末、一九八三年に死刑囚として初めて無罪を勝ち取った故免田栄さん(享年九十五)。彼の獄中から家族や教誨師(きょうかいし)に宛てた千四百通を超える手紙と、<自由社会>に復帰してからの肉声を通して、その軌跡を追った評伝である。奇(く)しくも一回目を読み終えた直後に、名張毒ぶどう酒事件で名古屋高裁が、再審を認めない決定を下した。元死刑囚(故人)の親族の無念、絶望は、常に死の恐怖と隣り合わせにあった獄中三十四年の免田さんの思いと重なるものがあった。
 死刑確定直後の免田さんは、<神様の御力にすがる外に助る道はありません>と怯(おび)え、「西辻決定」で再審開始と安堵(あんど)したのも束(つか)の間、福岡高裁が、確定判決を覆すことは「法的安定性」を保ちえないと、<法の安定>を理由に再審開始を取り消した直後、<私は死に切れません>と落胆する。こうして裁判への不信は、「疑わしきは被告人の利益に」という「白鳥決定」が出て、免田さんの再審開始が決まった後も根強く、<間違った裁判に対し反省がない。(中略)懸命に司法者の地位と名誉を保(ほさ・ママ)することに法治国家論を説いて居る>と裁判所の体質を看破している。
 <自由社会>へ帰還し、『生き直す』先に待っていたものは、<真犯人でもないのに、なぜ自白するのか>との密室体験への無理解な口撃、妬(ねた)みや差別、脅迫めいた手紙だった。そうした中で目指したものが、<人として認められること><人間の復活>だった。その象徴が、再審では確定死刑判決が取り消されないとしてあえて再審を請求したり、年金受給資格を求めて国へ申し立てたり、死刑制度廃止の活動だった。免田さんならではの訴えは、誰よりも強く、深く、重く、響く。
 冤罪(えんざい)事件の加害者には、警察、検察、裁判所だけでなくメディアもなりうる。この四月、新たにメディアに加わる人たちには、ぜひ本書と「もう一冊」を読んでほしい。
(弦書房・2200円)
1952年生まれ。元熊本日日新聞論説主幹。著書『水俣病を知っていますか』など。

◆もう1冊

熊本日日新聞社編『完全版 検証・免田事件』(現代人文社)

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