「素顔のミャンマー かるたで知って」 ヤンゴン帰りの高1制作 政変前の「日常」伝えたい
2022年3月28日 07時11分
軍事クーデターが起きたミャンマーから帰国した高校生が、クラウドファンディング(CF)で集めた資金で、ミャンマーを題材にした「Yangon(ヤンゴン)かるた」を作った。国際基督教大学高校(小金井市)1年の野中優那さん(16)=千葉県浦安市。「かるたを通じて、ミャンマーにあった穏やかな日常を知ってほしい」と思いを込める。
野中さんは商社勤めの父の転勤で、2019年からミャンマーの最大都市ヤンゴンで暮らし、クーデター1カ月後の昨年3月、高校進学のため日本に戻った。
「危険な国から帰ってこれてよかったね」。高校入学後、自己紹介への同級生の反応に違和感を覚えた。
ニュースで日本に伝わっていたのは、国軍が抗議活動を力で抑えつける様子。でも、クーデター前のミャンマーは美しく、人々が温かで、平和な場所だった。
自分と同じ普通の市民が突然、自由を奪われたのだと感じてほしい。思いついたのが、かるただった。
かるたなら文化や歴史を簡潔に伝え、子どもから大人まで楽しめる。絵札は自分で撮った写真などから選んだ。読み札でミャンマー語をカタカナにする時は、専門家に意見を仰いだ。
「あ」から「わ」まで44ペア。友人や家族が協力してくれた。資金は昨年12月から2カ月間、CFで募ったところ、目標の倍の約300万円が集まり、700セットを作った。
「朝の托鉢(たくはつ)から1日が始まる」は仏教徒が9割を占めるミャンマーらしい札。キリスト教徒が多い少数民族のカチン、カレンなど、多様性を表す札もある。
竹山道雄の小説を思い起こさせる「サウンガウはビルマ(ミャンマー)の竪琴(たてごと)」。JRの古い車両が走るヤンゴン環状線の札にも、日本との縁が浮かぶ。
野中さんのお気に入りは「ヤンゴンウォール」。若い芸術家らが、ごみだらけの裏路地をアートで美しく変えた光景を描いている。
クーデター後、国軍に殺害された市民は、人権団体の調べで1700人に上るが、時間がたち、ミャンマー情勢の報道は減っている。
「私に現状を変える力はないけれど、見たことは伝えられる」。野中さんはミャンマーを愛し、関心を寄せる人が増えることを願う。
かるたの約半数はCFの協力者に送った。残りは一般販売する予定だ。学校や公民館のほか、クーデター1年で国会議員会館で開かれた行事にも出向き、かるたを紹介してきた。
野中さんはミャンマー語版かるたの制作も計画している。まずは今回のかるたにミャンマー語訳をつけ、ゆくゆくは日本の文化をミャンマー語で紹介するバージョンも作る。ミャンマーで日本語を勉強する学生らに親しんでもらいたい。
「かるたを通じてお互いを知ったミャンマーと日本の若者が、交流する未来が来るといいな」。野中さんが胸に描くのはもちろん、平和な両国の姿だ。
かるたの問い合わせはメールyangonkaruta@gmail.com
文・北川成史/写真・平野皓士朗
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