<備えよ!首都水害>避難所の「3密」 どう防ぐ? 多様な避難を考えて

2020年5月15日 02時00分

台風19号を教訓に、足立区・長門小学校で今年2月に行われた水害対策の避難訓練=大沢令撮影

 自然災害から命を守る避難所が新型コロナウイルスの感染拡大で脅威にさらされている。密閉、密集、密接の「3密」の感染リスクをどう防ぐのか。災害と新たな感染症の二重のリスクに備えようと、自治体の模索も始まった。 (大沢令)

◆台風19号 避難者が密集

 記録的な大雨をもたらした昨年の台風19号。足立区の長門小学校には一時三百八十三人が避難した。近くの中川氾濫に備えて三階の教室が開放されたが、避難者は二階や廊下にもあふれた。
 「もっと増えたら屋上への階段を案内するしかなかった」。受付を手伝った自治会役員下島利代さん(60)は切迫した当時の状況を回想する。自らも教室で毛布にくるまって家族四人で一夜を過ごした。「教室で二メートル以上空けるスペースはなく、暴風雨で窓は開けられなかった。災害がいま起きたら」と不安を募らせる。

3月の地震で、石川県輪島市の避難所に用意された、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための消毒液(同月13日撮影)

 千葉県鴨川市は四月十三日、大雨で土砂災害の危険があるとして三十四世帯八十人に避難勧告し、避難所を開設。入り口に消毒液やマスクを準備し、検温や定期的な換気、二メートル以上の間隔を空けるなど急ごしらえで新型コロナ対策をしたが、避難者は来なかった。危機管理課の滝口俊孝主幹は「高齢の方が感染を恐れて、避難しなかった可能性も否定できない。台風シーズンまでに避難所のマニュアルを見直したい」と話す。

◆ホテル、旅館、知人宅…

 政府は四月、避難所での新型コロナへの対応について都道府県などに通知した。ホテルや旅館の活用のほか、親戚、友人宅への避難も考えてもらうよう住民に周知し、避難所では衛生環境や十分な換気などを求めている。

熊本地震で、グラウンドに張ったテントの前で過ごす人たち。感染症対策でもテント避難は選択肢の1つになり得る

 自治体も手探りだ。台風19号で約三万五千人が避難した江戸川区。区内の大半が海抜ゼロメートル地帯で、昨年公表した水害のハザードマップでは区外への避難を呼び掛ける「ここにいてはダメです」との刺激的な表現が話題を呼んだ。
 避難所は小中学校百六カ所で二十七万六千人以上を短期で受け入れられるが、今後は区外への広域避難をさらに呼び掛けるという。とはいえ東京の住宅事情を考えると知人を頼りにくいし、地方出身者も多い。防災危機管理課の本多吉成統括課長は「頼れる親戚や知人がいないとあきらめている人が多く、もっと真剣に考えてもらえるよう促していかなければ」と難しさを感じている。

◆対策難しいが…

 足立区も避難所での新型コロナ対策のほか避難のあり方の見直しを進めているが、会田康之災害対策課長は「三密のリスクなどいまある情報で議論するしかない。課題を挙げればきりがないが、台風は待ってはくれない」と焦りをにじませる。
 東日本大震災や熊本地震で避難所を支援した東北医科薬科大病院の遠藤史郎医師(感染制御部)は「治療薬やワクチンがない現状で感染が起きると避難所での対応は困難を極める」と指摘。換気の徹底や個人のスペースを広く取ることに加え「毎日の検温で発熱者をピックアップし、別室で過ごしてもらう仕組みは準備しておくべきだ」と提言する。

◆松尾一郎先生のミニ講座「新たな避難環境づくりが急務」

 新型コロナウイルス感染症の沈静化は、特効薬等次第だが少なくとも年単位の時間がかかる。その間、巨大台風は襲来するし、地震も突発的に発生する。

松尾一郎先生

 「感染症流行」に「自然災害による大量避難」が重なり、避難が感染拡大に繋(つな)がることを憂慮している。
 私が都民約千人に行った新型コロナ感染症へのアンケートで、73%が「感染症の流行は避難行動に影響する」と回答。「避難所に行かない」という人は22%もいた。車での避難を選ぶ人も42%に上った。
 国は、首都直下地震が発生すると避難者数は七百二十万人と推定している。この大量避難民が「三密」になるとどうなるか。横浜のダイヤモンド・プリンセス号船内での感染拡大事例から想像することが容易である。避難によるクラスター感染等の感染防止対策は最優先に考えるべきだ。避難所避難のみではなく、自宅が安全であれば「動かない避難」という方法もある。
 一時的に車に泊まる青空避難もある。今後は感染防止のために、多様な「分散避難」を選択できるよう地域と行政による防災体制の再構築と新たな避難環境づくりが急務と考えている。 (防災行動学・東大大学院客員教授)
※アンケートは水害、地震で避難経験がある都民を対象にしたインターネット調査。今年4月実施。

関連キーワード

PR情報