「種苗法改正案」農家に打撃懸念 地域農業守る「在来種保全法案」を

2020年5月14日 10時02分

黙々と鎌で稲を刈る女性=長野県岡谷市で

 新型コロナウイルス感染拡大の裏で、国会に「種苗法改正案」が提出されている。この法案が成立すると農家に大ダメージを与える恐れがある。作物の一部を採って繰り返し育てる「自家増殖」を原則禁じ、農家に企業などから種や苗を買うよう強いるからだ。「こんな法案より地域農業を守る法律が必要」。そんな動きがコロナ禍の国会で出てきた。(佐藤直子)

■なぜ不要不急の法案通そうとする

 「国民に不要不急の外出は控えなさいとか言ってる時に、なぜ政府が不要不急の種苗法を通そうとするのか」。川田龍平参院議員(立民)は十三日、インターネットを使ったオンラインの記者会見でこう訴えた。
 その種苗法改正案では、二〇二二年から育成権者の許諾なしに、農家が自家増殖することを禁じている。対象は八千品種余の国の登録品種。有名どころでは、米の「ゆめぴりか」「つや姫」、イチゴの「あまおう」などがある。
 時間と費用をかけて開発した育成権者を守り、海外流出を防ぐ。自家増殖の禁止は国の知的財産戦略の一環だ。例えば、日本で登録されたブドウ「シャインマスカット」。苗木が中国や韓国に流出してしまった。自家増殖を禁じていれば国内で苗の流れを管理でき、流出を防ぐことができる。農林水産省は法案についてこんな説明をしている。

■「企業の利益保護に偏りすぎて」

 一方、川田氏は「企業の利益保護に偏りすぎて地域農業を守るという視点がない」と反論する。実は種苗法以外にも、企業の権利を強める法の制定や廃止が相次いでいる。そんな状況を川田氏は問題視している。
 もともと種苗の開発は国や自治体の仕事で、「種苗は公共財産」という考えが農家には強かった。ところが、一七年に制定された「農業競争力強化支援法」は、都道府県が持つ種苗の知見を多国籍企業も含めた民間に提供するよう求めている。都道府県に優良な米や麦の生産や普及を義務付けた「主要農作物種子法」は一八年、廃止された。
 ここに自家増殖を禁止する種苗法改正が加わったらどうなるか。東京大の鈴木宣弘教授(農業経済学)は「国内品種の海外流出を防ぐという大義は理解できる。しかし、日本でも世界的流れと同様に、多国籍企業が種苗を独占していく手段として悪用される危険がある」と指摘する。

■訴訟リスク、日本の農業衰退する

 たとえ改正されても、登録されていない品種は自家増殖できる。それでも川田氏は「登録されているのと似ている品種もある。『これは登録品種だ』と疑いをかけられ訴訟を起こされるリスクがある。これでは規模が小さい日本の農業は衰退する」と心配する。
 そんなことにならないよう、川田氏は今国会で「在来種保全法案」を緊急提案しようと急いでいる。登録されていない在来品種を目録にし、農家が自家増殖する「権利」を守る内容にするという。
 鈴木氏も在来種の保護は急務と考えている。農家の高齢化が進み、この百年で在来種の七割が消滅したからだ。今も野菜を中心に在来種は減り続け、登録品種がとってかわっている。

■常に種を買わないといけなくなる

 鈴木氏は「種苗法が改正されると、農家は常に種を買わないといけなくなる。種のコストが高まる。『種を持つものが世界を制す』とはいう。これでは日本の食は守れない。南米やインドでは在来種を守ろうという抵抗が農家や市民から起きている。国民が知らぬ間の法改正はあってはならない。日本の市民はもっと関心を向け、引き戻しの議論をしてほしい」と訴えた。

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