予言の書・カミュの「ペスト」読書会 新型コロナで読者が当事者に 

2020年5月14日 11時53分

新潮文庫の「ペスト」。新潮社によると、販売部数はこれまで年間5000部程度だったが、今年2月以降は36万4000部が売れた

 新型コロナウイルス時代をどう生きるか―。多くの人が自問自答する中、アルベール・カミュの小説「ペスト」が読み直されている。疫病の発生で隔離された街の市民を描いたフィクションだ。多くの読み手に感想を聞いてみたいと、オンライン読書会をのぞいた。(文と写真・白井康兆)

ネットで買おうと…売り切れだった

 四月下旬、小田急線町田駅(町田市)に近い「町田の小さな場所 MUCHA」。オンライン読書会の参加者が、大型モニターに映し出されていた。
 「『ペスト』は学生時代に読み、今回が二回目。語りどころがたくさんある」「本をネットで買おうとしたら売り切れだった」
 熱く語るのは二十代~四十代の男女九人。首都圏のほか関西や九州、海外からの参加もあり、映像と音声を伝えるテレビ会議システムでつながった。

「今の世界と重なるのに驚いた」

 小説の設定は一九四〇年代のアルジェリアだ。「黒死病」と恐れられた感染症ペストが発生した街で、患者の隔離が始まり、やがて病床が不足しだす。
 「患者の死に家族が立ち会えない。今の世界と重なるのに驚いた」というノブさんに、同調する意見が相次いだ。物資の欠乏、職場閉鎖で暇になる人々の描写は、「予言の書」ともてはやされるゆえんだろう。
 行政が当初、病気をペストと認めたがらない記述もあり、ケイさんは「日本も五輪を控え、コロナの対応が遅れた」と指摘した。

コロナ深刻化、読者が当事者に

 読書会を企画したのは、MUCHAを主宰する兵藤仁美さん(33)と夫の周平さん(33)。「四百五十ページもあり読みやすい小説ではないが、コロナの深刻化で読み手が本の当事者になった」と意義を語る。

小説「ペスト」のオンライン読書会。企画した兵藤周平さん(左)と仁美さんの司会で、9人が語り合った=町田の小さな場所 MUCHAで

 小説では、ペストと闘う医師を中心にさまざまな市民が描かれる。ボランティアに身を投じる人々、閉鎖された街から違法手段で脱出しようとする出張者、社会の混乱を歓迎する犯罪者も登場する。
 「誰が感染するか分からない。これが不条理」とヘノさん。イクコさんは体験談として「中国の知人から『友達がコロナで亡くなった』と聞き、ウイルスが一挙に身近になった」と語った。

「悪」と「誠実さ」「連帯」「共感」対比

 小説の発表は、第二次世界大戦の終戦二年後の一九四七年。大量の人の死など「悪」が象徴的に描かれているとされ、対比するように「誠実さ」「連帯」「共感」などのキーワードがちりばめられている。
 多くの参加者が読後、リアルの生活に影響を受けたという。江戸川区の教諭、濱野天司郎さん(24)は「ペストと闘うボランティアの姿を読み、コロナと闘うとはどういうことか考えさせられた。この本から受け取ったものを生徒に伝えることが、自分とコロナとの闘いにつながる」。
 イクコさんは「夢に向かって具体的に踏み出した」と打ち明けた。小説と激動する現実とを重ね合わせ、「今やらないとダメだ」と感じたという。
 小説の「誠実さ」というキーワードに心動かされた人が多かった。キョウさんは「今一番大変なのは医療従事者。自分がコロナにかからないようにし、人にうつさないようにする。それが私の誠実さです」。
 わかばさんは、仕事や家族関係を振り返るきっかけになったという。「コロナが怖かったが、やるべきことを誠実にやれば良いと思ったら、平静に日常を送れるようになった」と語った。

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