<視点>生活保護の扶養照会、やめませんか 困窮の現場から考える 社会部・中村真暁

2022年3月30日 12時56分
 新型コロナウイルス禍が長期化する中で、生活に困窮する人が増えている。昨年12月の生活保護の申請件数は、前年同月比2.6%増の約1万8000件。8カ月連続で前年同月を上回った。特例的に設けられた貸付制度などの支援策では「もう耐えられない」という声の表れだと思う。
 憲法25条が定める「生存権」を保障する生活保護はその重要性が高まる一方で、誰もが利用しやすい制度になっているとは言い難い。自治体が申請者の親や子どもなどに、金銭面や精神面で援助できるかを問い合わせる「扶養照会」が、その要因の一つだと思う。
 生活保護法では、三親等内の親族の扶養は「保護に優先する」とされている。扶養されるか否かは関係なく保護費を受給できるが、生活保護の利用が知られることを嫌がる人は多い。

扶養照会の運用見直しを求めて記者会見した「つくろい東京ファンド」の代表者ら=2021年2月8日、東京都千代田区で

 一般社団法人「つくろい東京ファンド」が一昨年の年末から年始にかけて、生活困窮者に行ったアンケートでは、生活保護を利用していない3人に1人がその理由として「家族に(申請を)知られるのが嫌だから」と回答した。「今の姿を自分の娘に知られたくない」「親に心配されたくない」といった声が数多く寄せられた。
 扶養照会への批判が高まる中で、厚生労働省は昨年3月、申請者が照会を拒む場合はその理由を特に丁寧に聞き取り、援助が期待できるかを検討するよう各自治体に通知。親族と縁を切っていたり、相手先が高齢で援助が期待できなかったりする場合は照会を省略できるとした。
 それでも同省は、扶養照会を原則的には「必要な手続き」としている。同法人などによると、この通知後も「拒んだのに照会された」といった訴えは後を絶たない。自治体によっても対応に温度差があるという。

中村真暁記者

 生活保護を昨夏に申請したところ、老老介護状態の高齢両親に照会された男性は取材に、「屈辱的だった」と声を震わせた。約10年前も別の自治体で照会すると言われ、申請をあきらめたことがあるという。「援助が期待できないから生活保護を頼るのに、扶養照会に意味はあるのか」と疑問を投げかけた。
 その効果も限定的だ。同省によると、2016年7月に生活保護が開始された世帯のうち、扶養照会で金銭的な援助につながった割合は1.5%のみ。都内福祉事務所の職員は扶養照会について、「ほとんど扶養につながらず、形骸化しているが、原則的にはやらなければならない」と苦しい立場を打ち明けた。
 単身者の増加や核家族化が進み、昔ながらの家族制度が機能しなくなる中で、その「絆」に頼る扶養照会は有害無益だと思う。生活保護につながれるかどうかは命の問題だ。必要な制度から国民を遠ざけないためにも、国は扶養照会撤廃に向けて動きだすべきだ。

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