<ふくしまの10年・行ける所までとにかく行こう> (13)やせこけたウシたち

2020年5月8日 02時00分

福島県南相馬市小高区の牛舎では、多くのウシが餓死していた=豊田直巳さん提供

 東京電力福島第一原発の二十キロ圏が警戒区域に指定される前に少しでも多く取材しようと、写真家の豊田直巳さん(63)は二〇一一年四月十八日、「山麓線」と呼ばれる県道を南へ急いでいた。
 南相馬市小高区に入って間もない地点で、牛舎があり、何頭かのウシが外に出て草を食べているのが見えた。県道から続く農道は地割れが激しく、歩いて近づいた。
 全面マスクを通しても、異臭が鼻を突く。畜産が盛んな福島県の取材で、牛舎特有の臭いには慣れたが、それとは明らかに違う。牛舎の裏手も探したが無人だった。
 予想はしていたものの、牛舎内で直面したのは、衝撃的な光景だった。
 死んでいたのは一頭や二頭ではない。五十頭ほどいただろうか。乳牛が牛舎のあちこちでやせこけて横たわっていた。大きな目が乾き、まもなく命が尽きようとしているウシもいた。食べ物を探したのだろう。カセットテープか何か細いテープを引き出してはんでいた。
 つらかったのは、子ウシが死んだ親ウシを揺り動かそうというのか、ぺろぺろなめ続ける姿だった。穴に落ち、動けなくなった子ウシもいた。
 「何もしてあげられることがない。子ウシといっても、穴から引き上げられそうにない。おりを開けて放したところで助かりそうにない…」
 豊田さんは自らの無力さに打ちのめされた。
 畜産農家にしても、大切に育ててきたウシたちを置いて避難するしかなかったのだろう。原発事故は、そんな厳しい選択を迫った。やり場のない怒りと悲しさが込み上げてきた。

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