戦争を知らない若手美術家が描く原爆とは 原爆の図丸木美術館で李晶玉さんの個展開催中 広島訪問の衝撃を作品に

2022年4月1日 07時36分

上空から東京を俯瞰(ふかん)した作品と李晶玉さん

 戦争を知らない若いアーティストが、原爆というテーマに向き合ったとき生まれる作品とは−。東松山市の原爆の図丸木美術館で、美術家李晶玉(リジョンオク)さんの個展が開かれている。在日朝鮮人三世として日本で生まれ育った李さんは「戦争体験がない多くの日本人と共通する感覚がある」と語る。実際に被爆地を訪れた後に制作した展示作品は、近未来を描いたアニメを連想させるような、乾いた美しさをたたえている。(出田阿生)
 丸木美術館は丸木位里と丸木俊が制作した「原爆の図」を中心に展示するが、近年は現代アーティストの発表の場ともなっている。東日本大震災の後は、原発事故がテーマの企画展も開催。記憶の継承にとどまらない活動を展開する。今回の個展も、岡村幸宣学芸員が呼び掛けて実現した。

エノラ・ゲイの操縦席を描いた作品

 一九九一年生まれの李さんは「原爆をテーマにとは言われなかったが、初めて広島に行きました」。会場では原爆を投下した米爆撃機B−29「エノラ・ゲイ」や、原爆ドームを描いた作品など十点を展示する。巨大な爆撃機のコックピットと、ドームの天井を描いた二つの作品は、どちらも半球状の金属の骨組みから青空が透ける風景が似通っている。悲劇性を強調しないクールな画風が見る側を不思議な気持ちにさせる。

原爆ドームの天井から青空を見上げた作品

 エノラ・ゲイは終戦後、米国内で保存された。その格納庫の壁には、日本との戦争を体験していない米兵が原爆投下を描いたとおぼしき落書きがあったという。太陽や富士山、爆撃機が幼児のいたずらのように描かれた写真を見た李さんは「あまりの軽薄さに衝撃を受けた」と語る。「でも、戦争体験のない日本の私たちとどれほどの違いがあるのかとも思った」
 東京の上空に真っ赤な球体が浮かび、富士山がそびえる幅四・五メートルの大作も展示。作品は鉛筆で精緻に線描した下絵を拡大印刷して切り取り、張り付け、彩色している。一見すると平面的な絵画のようだが、間近で見ると複雑な工程で制作されていることが分かる。
 展示は十日まで。月曜休館。

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