誰がプーチン大統領を裁けるのか?戦争犯罪とは 国際刑事裁判所(ICC)の役割とは…

2022年4月4日 06時00分
<ウクライナ侵攻~そこが知りたい!>

ロシアのプーチン大統領=AP

 ロシア軍によるウクライナ侵攻により、米欧諸国を中心にプーチン大統領の「戦争責任」を追及する声が強まっています。ロシア軍が支配した地域では民間人の遺体が多数見つかり「ジェノサイド(集団殺害)だ」との批判も出ています。そもそも戦争責任とは何か。プーチン氏を裁くことは可能なのか。国際刑事裁判所(ICC)の役割とともに、萬歳寛之・早稲田大学法学学術院教授(国際法)に聞きました。(聞き手・岩田仲弘)

萬歳教授のポイント
・プーチン氏の行為は「侵略犯罪」に問われ得るが、実際に逮捕・訴追するのは難しい。
・これまでICCの活動に後ろ向きだった米国の姿勢の変化は注目に値する。
・ICCの役割にも自ずと限界がある。今回のICCの捜査で重視すべきは、ウクライナで何が起きたかを明らかにすることだ。
・ウクライナ侵攻の経緯と実態を知った結果、ロシアの国民がどのような選択をするかによって、民主主義の価値が試される。
・今こそICCなど国際機関の存在意義が問われている。

Q 戦争犯罪とは具体的にどんな行為を指すのでしょうか。
A 戦争で個人一人一人が負う刑事責任を指します。国家の指導者が違法な武力行使の決定に関与した場合、あるいは兵士らが武力紛争時に違法なかたちで損害を発生させる場合、それらが国際社会全体の関心事である「最も重大な犯罪」に当てはまると判断されれば、刑事責任を追及されます。

戦争犯罪、ICCの役割などについて解説する萬歳寛之・早大教授

Q 「最も重大な犯罪」とは。
A ICCはその管轄権が及ぶ対象犯罪として
①集団殺害犯罪(ジェノサイド):集団の全部または一部を破壊する意図をもった殺害など
②人道に対する犯罪:広範囲または組織的な住民の殺害や奴隷化、強制移送、拷問、強姦など
③戦争犯罪:殺人・捕虜の違法な待遇などや、民間人や病院、学校など軍事目標でない民間施設を故意に攻撃することなど
④侵略犯罪:国の政治あるいは軍事指導者らによる侵略行為の計画・準備・開始または実行
の4つを挙げています。
 
Q ウクライナ侵攻では具体的にどんな行為が戦争犯罪になり得るのでしょうか。
A ICCのカーン主任検察官は、戦争犯罪や人道に対する犯罪について捜査を始めたと発表しています。米国のブリンケン国務長官は具体的に、ロシア軍がアパートや学校、病院、ショッピングセンターなど、民間人が使っていると明らかに分かる場所を攻撃していると指摘。特にウクライナ南東部マリウポリで産科小児科病院や多くの市民が避難していた劇場が爆撃されたことを重く見て「米政府はロシア軍の構成員がウクライナで戦争犯罪を行っていると評価する」と表明しています。
Q カーン氏は英国やフランス、ドイツなど、ICCの設立条約である「ローマ規程」締約国の付託を受けて捜査開始を発表しましたが、そもそもウクライナ、ロシアは締約国ではありません。それでも捜査はできるのですか。
A ローマ規程上、犯罪が行われた国が非締約国であってもICCの管轄権を受諾した場合は捜査ができることになります。ウクライナはクリミア半島がロシアに併合された後の14年4月と15年9月の宣言によってICCの管轄権を受諾しているので捜査は可能です。特に15年の宣言では、ウクライナで行われたロシア高官らによる人道に対する犯罪と戦争犯罪などについてICCの管轄権を認めています。
Q プーチン氏の罪が問われるとすると、どんな罪が想定されるのですか。
A ウクライナ侵攻を決断、命じた国家の最高指導者なので、戦争の決定にかかわったとして「侵略犯罪」に問われる可能性はあります。

国際刑事裁判所(ICC)=AP

国際刑事裁判所(ICC) 1998年7月、ローマで開かれた国連外交会議で120カ国が賛成し、設立条約のローマ規程を採択。2002年7月に発効し、ICCが発足した。裁判官で構成する「裁判所長会議」「裁判部」と「検察局」「書記局」の4部門で構成。死刑はない。加盟国・地域数は123(21年11月現在)で、日本は07年10月に加盟。米国、中国、ロシアなどは非加盟。

▶次ページ「プーチン氏を逮捕できるのか」に続く
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